港利権で役人天国
積荷の箱に番号をつけ、帳簿に、仕入れた日付、場所、値段を書く。半分の積荷については誰も何も覚えてなかった。盗品が流れてきたらしき物多数。どーやって書けっつーの。
口減しに売られたらしい12歳の女の子、春玲も一緒に牢を出て積荷の整理をしてる。「紙と筆を持っていては箱を開けられないから助手が必要」と交渉したから。
牢から出て歩き回れることに体が喜んでる。じっとしてるのはキツイって。
「船じゃ、逃げるとこもない。重かったよな? こんな細い足に」
船長命令で、春玲は足の錘を外された。
私の脚もそこそこ細いような気がする。さりげなく足を差し出して、今か今かと錘が外されるのを待っていた。ら、
「香香は外すなって船長に言われてる」
何でだよ。
筆と墨を用意されたから央の国の文字で縦書きにしたけど、西の国の文字で横書きにした方が計算しやすかったなと後で反省した。合計金額を算出。
「仕入れ値は結構な額です。運ぶ手間もかかってるので、売るときは倍の値段ですか? 次の仕入れと、食料の調達、船員の報酬はどれくらいかかるんですか?」
尋ねると、船長は「えぇって、細かいことは。なんとかなる」とまるで他人事。
分かったことが1つ。この船の者は全員、儲ける気がない。船員が食べて、時には港で遊んで、船を維持できる金があればいいと思ってる。ぬるい! 商売人あるまじき精神。
金に執着しない商売人がいたことにカルチャーショックを受けた。きっとさ、こーゆー人らって、条約の「銅」と「銀」を書き換えるなんてことは絶対しない善人なんだろーなー。世間的にはOUTな生業でも。
そんなことをしているうちに、船底から甲板に出られるようになった。錘さえなければ他の船員と変わりない。春玲は笑顔が多くなり、たちまち船員たちの心のオアシスになった。最近、春玲は厨房の手伝いをしている。
積荷の整理と帳簿を手伝うのは船員に変わった。
夜は牢で寝た。ずっと閉じ込められていたときは忌々しい場所だったけれど、今ではただのプライベートスペース。
船には鉄の掟がある。売り物に手を出さない。掟破りには死。
だから私達は安全だった。船員らはガラこそ悪いけれど、紳士的に接してくれた。
川幅は徐々に広くなる。時折あった切り立つ岩はなくなり、河辺には広い景色が広がる。
港が見えた。
大きな船が何隻も等間隔に停泊し、たくさんの人で賑わっている。商人や荷を運ぶ人足が行き交い、酒屋、飯屋、倉庫が並ぶ。
あれ?
しかし、船は整備されている大きな港を過ぎ、小さな支流に入る。そして、近くにひっそりとあった、別の小汚い港に停泊した。
「さっきの港は使わないんですか?」
品物を高く捌けそうなのに。
「おうよ。許可証が要る」
「こっちの港は許可証、要らないんですね」
「ここに港があるのは、オレらみたいなヤツしか知らねーよ」
隠し港。そういえば、お寺で河港使用許可証を見たっけ。
「許可証が要るのは、あの港だけですか?」
「いや、大抵どこでも要る。都が近くなってくるとチェック厳しいんだよ」
おいぃ。今まで無許可で使ってたのかよ。
「出入りするたびに許可証をチェックされる?」
「おうよ。都に近い港ほど利権絡みで使用料も高くてよ。許可証もらうのに接待やら袖の下が要ってさ、おまけに使用料だぜ。役人ってヤツはさ。ちっ」
船員達は文句たらたら。
「オレも頭良けりゃ、役人になってたぜ」
「ムリムリ。科挙受けるよーな家に生まれなきゃよ」
「金持ちか」
「家柄もな。ははははは」
「役人って、港の管理してる人?」
「香香、そんな下っ端に賄賂渡しても、なんもできねーよ。政府のお偉いさん」
なんでも、港の利権は経済部門と土木部門が複雑に絡み合っているらしい。商いに関しては経済部門、港の整備は土木部門だから。
「ここは川だけどさ、海の港は外交も絡んでくんだよ」
「扱うもんによっちゃ、軍事部門もな」
この国は役人天国。




