芸?は身を助ける
ある日、バレた。
「お前、香香って名前だよな?」
「はい」
「酒場で噂んなってた女って、ひょっとしてお前? 西の国の軍を小指で投げて、『不正で取られた米、取り返す!』っつって鼻息で米蔵吹き飛ばして、橋を壊そうとしてた男らを悩殺した身の丈6尺(180センチ程)のねーちゃん?」
なにそれ。噂、メチャクチャになってるし。
「そんな人間、いません」
「だよな。で、香香の本物? もし本物だったら、匿おうって話んなってさ。オレらだってみんなと同じ庶民だからよ」
「みんな?」
「香香、香香って、あっちでもこっちでも暴動起こって、お尋ね者んなってっぞ。これ、酒場にあった人相書き」
ぺらりと渡された紙に描かれている顔は、どう見ても李氏様の女装版。李氏様だったら確かに背は6尺(180センチ程)ある。
ここでシラを切ってもよかった。でもさ、認めたら、安全に都まで運んでもらえるかも。途中で売られずに済むじゃん。
「本物です。噂話はかなり変な感じになってますが」
「やっばな。人相書きそっくりじゃん」
はあああ? その目どーなっとるん?! 私、こんなゴツくないから。絵は、どー見ても男じゃん。もっと、可憐だからねっ。
そして、船長から事情聴取をされた。
「西の国と央の国の和平条約の調印に立ち会ったんです」
「ほな、西の国の軍をやっつけたわけやないんか?」
「はい。米蔵の話も脚色されてます。ちょっと門破る場にいたくらいで、橋には行ってません」
船長に、斯斯然然と事の経緯を説明した。たった1箇所での暴動の場にいただけなのに、噂がどんどん進化していることも告げた。
「私、お尋ね者になるようなことしてません」
「ま、そんなもんやな。人は、はっきりゆうた人間についていくもんやからな」
その言葉で思い出した。自分が「不正で取られた米なら取り返す!」って言っちゃったこと。お姉様方誰もが怒ってるだけだった。行動に扇動したのは……。
自分で自分を追い込んでるじゃん。
「都に行くところだったんです。都まで連れていってください。お願いします」
「オレらは構へん。この船は港行きや。どのみちお前は都で売るつもりやったしな。で、大丈夫なんか? お尋ね者やったら、都は危ないぞ?」
「それでも、どうしても行きたいんです」
雲嵐に会うために。
「ま、本人がそーゆーんやったらしゃーない」
次の港では別の女が売られた。
「香香しかいなくなっちゃったよぉ」
暗い牢の中、残された2人で壁にもたれ、並んで座る。12歳の女の子は私に縋りついてすすり泣く。
「大丈夫だよ。きっとなんとかなるよ、春玲 」
静かな夜、月も星も見えない船底で雲嵐を想う。
せめて元気だって伝えたい。
ねぇ雲嵐、今、なにしてる?
揺れる船底で伸びてきた爪を折って短くする。船底の暗さは心まで侵食してくる。
「これが1箱15で仕入れたヤツで、3箱あるから、えーっと。くそ。あ”ーっ。こっちはいくらだったか忘れたし」
牢の前にぎっしりとある積荷の間で、下っ端の男が積荷を蹴飛ばす。それは数日前に仕入れたもの。
「13」
私の言葉に、男が「え?」と積荷の中から頭を出す。
「お。そっかそっか。他のは?」
「さっきのをたまたま覚えてただけです」
「な、これ、全部でいくらくらいか見てこいって言われたんだけどさ、オレ、分かんねーわけ。香香、分かるか?」
「帳簿があれば」
「ちょーぼ?」
「何がいくらだったかって書いとくやつです」
「そんなんねーし。そんなん書けねーし、読めねーよ」
「ですよね」
「安く買って高く売りゃいいだけ」
「確かに」
しばらくすると船長が現れた。
「おい、香香、ひょっとして字ぃ書けるんか?」
こうして私は、船底で積荷を整理することになった。




