表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/253

芸?は身を助ける




 ある日、バレた。



「お前、香香(シャンシャン)って名前だよな?」


「はい」


「酒場で噂んなってた女って、ひょっとしてお前? 西の国の軍を小指で投げて、『不正で取られた米、取り返す!』っつって鼻息で米蔵吹き飛ばして、橋を壊そうとしてた男らを悩殺した身の丈6尺(180センチ程)のねーちゃん?」



 なにそれ。噂、メチャクチャになってるし。



「そんな人間、いません」


「だよな。で、香香の本物? もし本物だったら、匿おうって話んなってさ。オレらだってみんなと同じ庶民だからよ」


「みんな?」


「香香、香香って、あっちでもこっちでも暴動起こって、お尋ね者んなってっぞ。これ、酒場にあった人相書き」



 ぺらりと渡された紙に描かれている顔は、どう見ても李氏様の女装版。李氏様だったら確かに背は6尺(180センチ程)ある。


 ここでシラを切ってもよかった。でもさ、認めたら、安全に都まで運んでもらえるかも。途中で売られずに済むじゃん。


 

「本物です。噂話はかなり変な感じになってますが」


「やっばな。人相書きそっくりじゃん」



 はあああ? その目どーなっとるん?! 私、こんなゴツくないから。絵は、どー見ても男じゃん。もっと、可憐だからねっ。


 そして、船長から事情聴取をされた。



「西の国と(おう)の国の和平条約の調印に立ち会ったんです」


「ほな、西の国の軍をやっつけたわけやないんか?」


「はい。米蔵の話も脚色されてます。ちょっと門破る場にいたくらいで、橋には行ってません」



 船長に、斯斯然然(かくかくしかじか)と事の経緯を説明した。たった1箇所での暴動の場にいただけなのに、噂がどんどん進化していることも告げた。



「私、お尋ね者になるようなことしてません」


「ま、そんなもんやな。人は、はっきりゆうた人間についていくもんやからな」



 その言葉で思い出した。自分が「不正で取られた米なら取り返す!」って言っちゃったこと。お姉様方誰もが怒ってるだけだった。行動に扇動したのは……。

 自分で自分を追い込んでるじゃん。



「都に行くところだったんです。都まで連れていってください。お願いします」


「オレらは構へん。この船は港行きや。どのみちお前は都で売るつもりやったしな。で、大丈夫なんか? お尋ね者やったら、都は危ないぞ?」


「それでも、どうしても行きたいんです」



 雲嵐に会うために。



「ま、本人がそーゆーんやったらしゃーない」



 次の港では別の女が売られた。



「香香しかいなくなっちゃったよぉ」



 暗い牢の中、残された2人で壁にもたれ、並んで座る。12歳の女の子は私に縋りついてすすり泣く。



「大丈夫だよ。きっとなんとかなるよ、春玲(チュンリン)



 静かな夜、月も星も見えない船底で雲嵐を想う。

 せめて元気だって伝えたい。


 ねぇ雲嵐、今、なにしてる?

 






 揺れる船底で伸びてきた爪を折って短くする。船底の暗さは心まで侵食してくる。



「これが1箱15で仕入れたヤツで、3箱あるから、えーっと。くそ。あ”ーっ。こっちはいくらだったか忘れたし」



 牢の前にぎっしりとある積荷の間で、下っ端の男が積荷を蹴飛ばす。それは数日前に仕入れたもの。



「13」



 私の言葉に、男が「え?」と積荷の中から頭を出す。



「お。そっかそっか。他のは?」


「さっきのをたまたま覚えてただけです」


「な、これ、全部でいくらくらいか見てこいって言われたんだけどさ、オレ、分かんねーわけ。香香、分かるか?」


「帳簿があれば」


「ちょーぼ?」


「何がいくらだったかって書いとくやつです」


「そんなんねーし。そんなん書けねーし、読めねーよ」


「ですよね」


「安く買って高く売りゃいいだけ」


「確かに」



 しばらくすると船長が現れた。



「おい、香香、ひょっとして字ぃ書けるんか?」



 こうして私は、船底で積荷を整理することになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ