表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/253

老老不死の桃源郷

「私達は、ここが不老長寿の桃源郷と聞いて参りました」



 李氏(りし)様は牛歩爺に花のような笑顔を向ける。



「不老長寿の桃源郷ねぇ。そりゃ医者にかかる金がタダやから。国から長生き金が出るしなぁ。はっはっは」


「長生き金?」



 初耳。私は首を傾げる。他のみんなは知ってた。



「60歳を過ぎると、国から長生き金が出る。もう働けないから。月々なんとか食べられる分が。今までご苦労様でしたってこと」



 燈実(とうみ)様が教えてくれた。さらに李氏様が補足する。



「国に大きな決まりごとはあるが、細かいことはそれぞれの地域に任されいてな、ここでは医者にかかるのも薬をもらうのも60歳以上は金が要らない」


 へー。


 燈実様は牛歩爺のしわくちゃの手を取って感激する。



「本当に素晴らしい制度です。年長者を敬う地域だからこそ、長生きなさるのですね」



 不老長寿の桃源郷について美しくまとまると、牛歩爺は異論を唱えた。

 


「死にたがっとる年寄りはいっぱいおる。でもな、家族が死なせてくれん。生きとれば長生き金が入る」



 家族。



「若い人もいるんですね?」



 雲嵐(うんらん)は訊いた。田畑が荒れていたから、耕すべき人間がいることを確認したんだと思う。



「あんたらみたいに若いのはおらん。長生きの親を介護しとる(もん)もジジイとババアや。ワシの母親も去年まで家の奥で息しとった。死にたがっとったんや。でもなぁ、饅頭買ってくれる人はおらんし、税は払わなならん」


「そんな……」



 燈実様が何かを言いかけてやめた。



「食べることできんのに、薬どころやない。でもな、治療せんのは殺人やって医者は言う。タダやから治療せぇってな。他にもいい薬を医者が薬屋に知らせる。そうすっと薬屋が薬を持ってくる。医者と薬屋が儲かる。その金は役人に流れとる」



 とすると、60歳以上の老人がいる家は、それだけで収入が多いことになる。そんな旨い話なのに田畑は荒れ放題でジジイとババアばかりって。



「どーして、私達くらいの人はいないんですか?」



 年長者を大切にする桃源郷なのに。医者と薬屋と役人が腹黒いって理由では説明がつかない。



「税や。この地域だけの特別医薬税があるんや。どんどん高くなる。医者と薬屋が儲ける分だけ高くなるわな。若い夫婦が逃げたのが最初やった。その家は年寄りがおらんかったから、国からの長生き金がなかったんや。どんどん逃げ始めた」


「だから田畑を耕す人がいなくなったんですね」



 そう言うと、牛歩爺は「そーやそーや」と歯の抜けた口で笑った。笑うの? 結構悲壮感漂う話の気がする。



「はっはっは。役人はな、残っとる(もん)で田畑耕して税払えってゆーんや。最初はゆーこと聞いとった。でもな、税が増えて、どんどん人が逃げて。オレの母親は『土地とワシらを捨てるんか』って息子ら家族に怒鳴っとった。でもオレは『逃げろ』って言ったんや」


「すいませーん」



 そこへ客がやってきた。50歳くらいに見える。



「おお。どーした」


「葬式饅頭頼むわ、おっちゃん」


「そうか。……ご愁傷様です。やっと治療やめたんやな。辛かったな。葬式はいつや」


「明後日」


「お前はこれからどーするんや」


「街ぃ出て仕事探すわ」


「寂しぃなるな」


「なぁおっちゃん。オレな、なんで早う楽にしてやらんかったんやろな。『死なせて』ってゆーとったのに。痛い辛いって(うめ)いとった。親、あんな苦しませて、オレは酷い息子や。1日でも長生きさせてくれって医者に頼んで」



 男はおいおいと泣いた。



「そりゃなぁ、1日でも一緒にいたかったんや」


「オレ、最期にすごい親不孝やった」


「そんなことないそんなことない。小さいころからお前を知っとる。お前は親思いの優しいええ子や。何年間もずーっと、よう介護頑張った。これからはお前の人生を生きぃ」


「おっちゃん、オレな、自分は楽に死にたいわ」


「そんな桃源郷……あったらええなぁ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ