ジャマしないでよ
期待していないものを見つけてしまった。木々の葉の間から見える裸の3体。はっきりとは見えてないからね。肌色だなってくらい。
「オレの力こぶイくね?」
「や、オレの胸筋だって」
この声は燈実様と御者。
「ま、肌の美しさは私かな」
+李氏様。
「戻ろ、雲嵐」
雲嵐の腕を引っ張る。けれど律儀な雲嵐は挨拶すると言う。私は行かないから。ってか、向こうは裸だから、行けない。
「香香は戻って待ってて」
言われて、荷馬車で待っていた。
すると、雲嵐は3人を連れてきた。李氏様、燈実様、御者。3人とも湯上がりでほやほやと髪から湯気を出している。
「一緒に行こうって誘われたんだ」
いえ、ぜんっぜん一緒に行きたくないんですけど。二人きりじゃなかったら、一緒に温泉入れないじゃん。
「どちらまで?」
尋ねると李氏様が答える。
「桃源郷。この辺りに不老不死の桃源郷と言われているところがある。長生きの者が多く、年寄りは大切にされていると聞く。香香、長生きの秘訣をご享受願いたくはないか?」
いえ全く。私は雲嵐とラブラブしたい。
「そうなのですか。ではごゆっくり。雲嵐と私は……」
「せっかくだから行こーよ、香香」
雲嵐が私を見て首を傾ける。ちょっと伺うようなその仕草。子鹿のような瞳。かわよ。
「うん」
私達は李氏様一行の馬車について行った。
不老長寿の桃源郷ねー。
「ね、香香、桃源郷って何?」
「んーっとなんだったっけ。書物に出てきたことあったんだけど。俗世とは違う理想郷?」
「へー。よく分かんね」
じゃぁ断ろうよー。
山々の間に人里が見えてきた。
田畑が荒れてる。ほとんどのところは何も作ってなさそう。
水田として区切られた少し低くなった土地は雑草が伸び放題。畑も同様。かろうじて何か作ってあるところも、農作物が雑草の間に紛れてる。
「どーしたんだろ」
「逃げたんじゃね?」
雲嵐が言うように、農民が土地を捨てることはよくある。税の負担に耐えかねて。最近多い。見つかったら連れ戻されるし、体罰がある。それでも逃げる。
それにしても、桃源郷とは全く別世界。
やがて、前を走る馬車が停まった。周りを見渡せば家々が立ち並び、地域の中心部に見える。薬屋、病院、両替商。物売りや大きな葛篭を背負った薬売りが歩いてる。
なんか。閑散としてる。
活気が全くない。
馬車から降り、5人でぶらぶらと歩いてみた。
「大きな街道の街しか見てこなかった。普通は、こういったものかもしれないな」
李氏様は扇子を顎に当てて辺りを見回す。
「薬屋と医者が多いな」
と雲嵐。私も思った。あっちにもこっちにも病院、薬屋。
饅頭を売っている店があった。まるで砂漠の中のオアシス。店の前には長椅子が2つ置かれている。
饅頭を1つずつ頬張る。饅頭屋の主人はお茶を運んできてくれる。姿が見えてから私達のいる長椅子のところまで、一歩、また一歩とゆーっくり歩いてくる。牛歩。見かねてお盆を取りに席を立った。
「お心遣いありがとうございます」
お茶の載った盆を受け取り、みんなの傍らに湯呑みを置いていく。
「ぁりがとぅな。嬢ちゃん」
牛歩爺はまた、一歩一歩ゆーっくりと店の奥へ入って行こうとする。
「すみません。いろいろと伺いたいことがあります」
燈実様が呼び止める。すると、牛歩爺は方向転換をしてゆーっくりと歩き出す。御者は牛歩爺のところまで行って、手を引いて連れてきた。雲嵐は、いつも座っているらしき、座布団や膝掛けがある椅子を用意。牛歩爺を椅子に腰掛けさせ、膝掛けで脚を包む。
「ここはあまり、人がいないのですか?」
李氏様が尋ねると牛歩爺は歯がところどころ抜けた口で笑った。
「はははは。半分は家で寝とる」




