アラビア数字の色
きゃーっという甲高い歓声と共に、女達が一斉に門の中に雪崩れ込む。
「待ちなさい!」
馬が2頭、駆けて来た。そして、門の中に入って行った集団の前に立ちはだかる。
あら? 李氏様と燈実様。一目で役人と分かる服装。
李氏様はピリピリと響くような声を張り上げた。
「話は聞いた。しっかりと裁くゆえ、静粛に!」
女達にとっては顔を知らない役人。地元の者ではない。しかも李氏様は身なりから上級の文官と分かる。その場は静まり返った。
「今日のところは家に戻りなさい。お前達が米蔵を襲えば、窃盗罪で捕まえなければならない」
李氏様が優しい目を向けると、お姉様方はへろ〜んとなる。
そのとき、5歳くらいの男の子がびーびーと泣き始めた。
「腹減ったぁ。なんか食いたいよぉぉ」
枝のような腕で涙を拭う。
他にも、母親についてきたらしき男の子がいた。
「父ちゃんと母ちゃん、昨日、何も食ってねーんだよ。なのに、オレには芋を食えってゆーんだ。なんでだよ。なんで作った父ちゃんと母ちゃんが食べれなくて、ここにはこんなにいっぱい米あるんだよっ」
その言葉に、ぽつり、ぽつりと何人かが涙する。「あそこは子供が5人いるもんね」「そんなに大変だったんだ」「言ってくれれば」そんな小さな声が聞こえてくる。
門を壊された商人は李氏様に訴えた。
「こいつらをしょっぴいてください。ああ怖い女どもだ。恐ろしい」
「縄をかけろ」
李氏様が燈実様に一言。燈実様は馬から下りて、商人に縄をかけた。
「は? なんで私が。お役人様っ」
商人は米蔵を開けさせられ、その中の一部が農民に配られた。
「これでひとまずの米はあるだろう。なるべく早く調査と裁判を行い、皆に米や小麦を返すよう取り計らう。不服もあるだろうが、こちらも正確なことを把握しなければならない」
李氏様の言葉を、なぜかうっとりと聞くみなさん。最後はこくこくと頷いて納得し、ぞろぞろと帰って行った。
燈実様は商人を連れて橋に向かった。
「香香、何をしている」
見つかっちゃった。
「お久しぶりです。文と報酬をありがとうございます。荷馬車も。えーっと」
「雲嵐が心配して探してたぞ」
「あ」
野菜買いにきただけだった。
「まさか農民達を煽ったわけじゃないだろーな」
「ま、まさか」
違う。違うはず。私は火をつけようとしてたのを止めたんだから。
「まったく。正義感もいいが、目立つのは命取りだぞ」
「はい」
「にしても。よかったな」
ん? 李氏様は私のお腹の下辺りに目をやる。
!
コイツ、すっげーしょーもない異能だった。
思わず腰の辺りを買った野菜で隠す。
「見ないでください。セクハラジジイ」
「ジジ!? しょーがないだろ。幸せなんだな。桃色をしてる」
「桃色?」
「話してなかったな。数字には色がついている。憶測でしかないが、桃色は恋心がある交わりだ」
いや、なんか、そんなん言われるの、めっちゃ恥いんだけど。
「他の色もあるんですか?」
「姦通罪の女は、赤とか濃い赤紫のことが多い。情念かもしれん。娼婦に見えた4桁の数字は真っ黒だった。街で見かける数字は黄色や橙色が多い。貴族の女性は青い数字が多い。青は義務的な感情かもしれん」
それを聞いてぞくっとした。李氏様は、翠蘭の気持ちを知ってる。
なんて残酷な能力。
「そうなんですね」
「これは燈実にも話したことがない。黙っていてくれ」
「はい」
「……透明なんだ」
「え?」
「翠蘭だけ。0と同じ透明」
「……」
「おっと。私は橋に行かなければ。香香、元気で」
「いろいろお世話になりました」
「気をつけて」
「はい。燈実様にもよろしくお伝えください」
透明、か。
大急ぎで帰って雲嵐と食事をした。その後橋のところへ行くと、何事もなかったかのように渡ることができた。




