家族
会ってても、お互いのこと知らなかったね。
「香香、お兄さんがいるんだ?」
「何年も前に戦に行って、帰ってこなかったの」
「ごめん」
「ううん。雲嵐は兄弟はいるの?」
「兄が3人。姉が1人」
雲嵐、いろんなこと、教えてね。
いっぱい。
温っかな肌に安心して眠ってしまった。
翌日、山を下り、元住んでいた家へ行った。家と言っても壁と屋根と竈があるだけ。寛ぐスペースはキラと過ごしたベッドくらい。
荒らされた形跡なし。だったらあるかも。
「急ぐね」
米や雑穀、最低限の着替え。それから棚と床の間に手を突っ込んで、金と銀の入った巾着袋を出す。床下から紙幣の入った竹筒を出す。
これからのことを相談した。
「馬に乗っての長旅は香香にはキツイ。オレ、ケツ辛かった」
「大変だったんだね。じゃ、荷馬車を探そ」
荷馬車を求めて歩いていると、見覚えのある馬車が停まっていた。
「あれ、李氏様の馬車」
そのとき、「香香」と小さな声がした。声の方を見れば、御者が建物の影で手をこまねいている。そして、「しっ」と人差し指を口の前で立てた。
雲嵐と共にささっと建物の影へ身を隠す。
御者と雲嵐は小声で挨拶と自己紹介。
「今、都まで行くための、荷馬車と馬探してるんです」
と、私は早く帰る気満々なことを伝えた。御者は驚く。
「都?! 自殺行為。ぶっちぎりで速く走るか、別ルート使うか、2ヶ月くらい別の場所に隠れてから動くか。なんか考えた方がいい。それと、荷馬車ならある」
そーじゃん。李氏様が用意してた荷馬車があるじゃん。
荷馬車を譲り受けた。牧場で馬を1頭購入。雲嵐が連れてきた馬との2頭立。牧場近くに住んでいた知り合いの農家から、食料や鍋、布団を貰った。
即、出発。
御者によれば、第七皇女御一行、外交の大臣、兵士達、李氏様達は、まだ、帰りの計画をしている段階らしい。第七皇女御一行と兵士達は、先に出発してしまえば追いつかれることはない。李氏様達とは合流しても大丈夫。問題は外交の大臣。
荷馬車で雲嵐と2人。ガタゴトガタゴト。遥か彼方、都を目指す。
「香香、外交の大臣と鉢合わせしなくても、追手がいたら終わりじゃん」
結構危ない状況。
「うん。いるかも」
「追いつかれる」
「大丈夫。私の顔知ってるのって外交の大臣だけなの。李氏様と一緒にいなければ、私ってバレないと思う」
メインルートを進み、不審なことがあったらルートを変えることにした。
ガオは、馬車の後ろをととととっとついて走り、休みたくなるとピョーンと馬車に飛び乗る。
手を伸ばせば雲嵐がいて、いつも傍にガオがいる。追手がいて危険だとか、見つかっちゃいけないとか、どーでもよくなる。2人でご飯を作って食べて、一緒に眠る。時には宿に泊まったけれど、大抵は荷馬車の中で寝た。春から夏にかけての気持ちのいい季節。
「李氏様と燈実様にご挨拶したかったな」
「また会えるよ」
御者に会ったとき、李氏様と燈実様は近くにいたはず。けれど、外交の大臣の手の者は、恐らく李氏様と燈実様を見張っている。身の安全のため接触を避けた。
「雲嵐に言われると、ホントにすぐ会える気がする」
「必要な人には会える」
2人で夢を描く。雲嵐の家族に会ってから、どこか別の場所に移り住む。小さな家でガオと一緒に暮らす。子が生まれて家族が増える。
「子?」
雲嵐の言葉にぽわ〜っとなる。今まで何度も夢見た家族。
それは幼いころの自分に重なる。兄がいて、わんこがいて。子供だから稼ぎなんて僅か。それでもいっぱい笑ってた。
穏やかで温かくて楽しくて、そんな家族がいいな。
「雲嵐」
「ん?」
「なんか、怖いくらい幸せ」
胸がいっぱいになって涙腺がおかしくなる。雲嵐は「オレも」と私の頬にぴったりと自分の頬をくっつけた。




