噂と怒りの原因は
雲嵐は途中、第七皇女の御一行を見た。西の国境へ向かっていると耳にした。その時は私に関係あるなんて、想像もしなかったそうな。
雲嵐は、先々で李氏様と私の名を聞かなかったかと尋ね歩いた。李氏様の名前は宿の台帳に度々あったらしい。宿の者は、若い女と若い男2人が同行していたことを覚えていた。目立つもんね。李氏様。
西の国境近くで、ガオはメインルートから外れ、小さな街に入った。
「一生懸命探してくれたけど、ここまでかって。今まで通りだったら、すぐ近くにあった大きい街の方に泊まるはずじゃん」
ガオ天才。私の昔の知り合いがいる可能性があるから、大きい方の街を避けて通った。
国境近くにはメインストリートに面した大きな街がある。そこから国境までは歩いて1時間くらい。国境の検問所で袖の下を出さずに足止めを喰らうと、街に戻って宿に泊まることになる。どっちにしても金を失う仕組み。大きな街の組合は役人達と繋がってる。
検問所の役人達にも情けはある。貧しそうな旅人には、安い宿のある小さな街への道を教える。私が李氏様達と泊まった宿があった街。そこでは逃亡の準備をするため、李氏様は偽名を使った。
「その街、宿少なくてさ。全部の宿で李氏様のことを聞いたけど」
泊まった記録はないと言われた。ただ、都からイケメンが3人も来たと、宿で働いている女達が騒いでいた。
「絶対、それって思った」
確かに。雲嵐は4人目になってるかも。
諦めかけていたとき、調印の話を耳にした。第七皇女が拐われたと。
そのころ、ガオは毎日のように司令部から国境付近をくんくんしながら行ったり来たりしていた。
調印をした場所=私が拐われた場所。そこはかつて戦場だった。道がない。検問所もない。雲嵐は国境を越えた。国境を越えてすぐ、土埃に塗れた央の国の靴を片方拾った。女物。ガオはその匂いを嗅ぐと、そこらか迷わずに進み出した。私の足、そんな臭かった?
辿り着いたのは、切り立った山の麓。整備された道があり、轍があった。馬車が行き来しているということ。
雲嵐は安全のため、夜、行動することにした。1本道の終わりには屋敷。門の前には見張りの兵士が2人。
1度は諦めた。次の日、ガオがいなかった。ガオは食事のために時々狩に出かける。それだと思っていたら、別の日、ガオが山の上の屋敷へ道案内をしてくれた。切り立つ崖の脇道による攻略法。実はガオは、道を探しくれていた。そして、私に会った。
調印まで待つことになった雲嵐は、大きな街の外れで仕事をした。住み込みの飯屋。
「どこでどーやって待ってればいいのか、香香に相談したかったのに。会ったら、なんか、ただ嬉しくて。ぎゅっとしたくて」
そーいえば、打ち合わせしなかった。
「飯屋で仕事してるとき、香香の噂、すげかった。偽物をやらされたのは、少し北の山に住んでた女の子らしいって。1年くらい前に突然いなくなった子。第七皇女の身代わりをさせるために、年端もいかない女の子を利用するなんて許せんって、みんなが超怒ってた」
「え? そーなの?」
身寄りのない人間が1人いなくなったところで、誰も気にしないと思ってた。
でも、誰がそんな噂を流したんだろ。身代わりや私の身上まで知ってるのは李氏様と燈実様しかいない。
「税が重いんだってな。この辺。なんか、政府への怒りが香香のことにくっついたって感じ」
「そーだね。この辺は気候が厳しくて、他のとこほど農作物が取れないんだよね」
乾いた風が吹くところ。土壌にも恵まれていない。
二期作も二毛作もできないどころか。年に1回の収穫すら多くはない。皺寄せは農民に行く。
「調印の日、現地に行ったら人がいっぱいで。びっくりした」
要するに、私のことがきっかけで政府への不満が爆発したんだね。




