武装した素人軍団
快晴。
この地はもともと雨が少ない。
央の国ファッションに身を包んだ私は、兵士達にじろじろ見られた。皇后様曰く、西の国の男性は、肌を露出している女性に免疫がないのだとか。特に兵士は家族と離れて暮らしているため、女性は踊り子ぐらいしか見ていない。
[央の国で言えば、下着姿の娘が目の前にいる感覚なのでしょう]
へー。私のことエロい目で見てんのかぁ。変なの。
警護の兵士が並ぶ場所から調印のポイントへは輿で移動した。
前方、央の国が騒がしい。警護のための兵士達とは違う人の塊がある。
風に乗った声が聞こえてくる。
「ねーちゃん」「ねーちゃん」「無事かーい」「帰ってこーい」
え?!
輿が進むにつれて塊の正体が明らかになる。
前に住んでいた辺りの農民達、一緒に仕事をしていた用心棒ら、山賊の皆さん。男ばかりか女の人もいる。お世話になった方々がいっぱい。顔を知らない人達も大勢いる。兵士達の4倍の数に見える。
マジで? そこそこ距離あるじゃん。来てくれたの?
でもって、なんでみんな、鍬とか鋤とか危ないもん持ってんの?
雲嵐とガオは……見つけられない。
集中!
大役を担っているのだから。
いや、違う。考えろ。
事が終わった後、私はどこへ行けばいい?
正面には調印をする机と椅子。私達と同じように輿に乗って近づいてくる第七皇女。輿の担ぎ手は、燈実様と御者が2トップ。
そのずっと向こうに、李氏様と……。げっ。外交の大臣がいる。のうのうと。秘書に罪をなすりつけただろうヤツが。アイツの目の黒いうちは命が狙われる可能性大。
ってことは、とりあえず、あっちへ行ったほうが安全なんじゃね? 私は武装した素人軍団を見た。
輿から優雅に降り立ち、皇后に続く。
第七皇女と挨拶を交わす。
皇后は条約の紙を広げて高く掲げ、西の国の部分を大声で読み上げた。これについては打ち合わせになかった。恐らくはアドリブ。同じように第七皇女も央の国の言葉で読み上げた。
2人から視線を感じ、私も渾身の大声を出す。
「相違ありません!」
厳かにサインがされる。
最後、2つの条約の紙を重ね、それぞれが自国の割印を押す。
1枚ずつ丸めて筒に入れる役目は私。
皇后と第七皇女が筒を持ち、握手。
終了。
第七皇女が輿に乗って振り返る。
「香香。無事でよかった」
私は膝を折って両手を合わせ、第七皇女に礼をする。
「大変お世話になりました」
続いて「失礼しますっ」と言い捨て、一目散に武装した素人軍団の方へ走った。くそぉ、長いスカートが走りにくい。両手でスカートをたくし上げる。全速力。
央の国の兵士達が私に向かって走ってくる。
「こっちだ」「ねーちゃん」「走れ!」「オレらが相手だ」
農民達が口々に叫びながら、堰を切ったように兵士達に向かっていく。
危ない!
振り向いた視界に飛び込んだのは、先頭の農民に剣を振り上げる兵士。
パン
乾いた音が響いた。ざわめきが止み、その場の動きが止まる。
カラン、と剣が地面に落ちた。兵士は手を押さえて蹲る。
銃声?
どこから?
ざわめきの中、一度止めた足を動かし始める。今のうちに。逃げろ。走れ。
私は素人軍団の中に飛び込んだ。後ろに人が流れていき、兵士達から守る盾となってくれる。鍬と鋤、危っな。
「香香!」
突然視界が開け、馬に乗った雲嵐と傍らにガオ。
「雲嵐っ」
捲り上げていたスカートを下ろして雲嵐の馬に向かう。雲嵐から差し出される手を掴むと、馬の上に引き上げられた。
「「「逃げな!」」」「「「元気でね」」」
後ろで女達の声がした。人々の厚意に感謝。
「ありがとうございますっ」




