立会人の番狂わせ
キラは有力者の息子らしい。で、私とこんな話してていいんだっけ。金があるから自由気ままに暮らしてる放蕩息子ってやつかな。
[西の国は科挙みたいなのある?]
[ない。学校はある。オレ、行ってる]
[行ってねーじゃん]
私と遊んでる。
[怪我したから、今、休んでるだけ]
[下の下の下やってたとき、央の国の都に遊びに来てたじゃん]
[第七皇女の情報仕入れてたんだよ。別に遊んでたわけじゃねーし]
言いながら、キラは包帯に突っ込んた棒で体を掻き続ける。
[ふーん]
[専攻は政治学。そこで不自然に習わなかったんだよなー。市民で政治をした国があるって歴史。ついこの間もあったのに]
[なんか、言ってたね]
[オレ、民主制について授業で出てくると思ってた]
[君主制の国でしないって。危険分子仕込んでどーすんの]
広いベッドの上、キラと2人で喋っていると、時間が経つのが早い。
[学問にそーゆーの、嫌だよな]
[そーゆーもん?]
囚われの姫として、私は三食昼寝付き。庭くらいは歩いていいと言われた。ただ条件がある。民族衣装を着ること。メンドクサ。
昼間は人目がある。キラと軽口を言いながら歩くのは夜。
庭で2人、月を眺めていると、侍女が紙を持ってきた。キラは、庭に灯してあった松明の前でそれを読む。
[香香、ヤバい。第二皇女の代わりに、香香が調印の立会人することんなった]
なんですと?
[だったら第七皇女役は誰がすんの?]
[本物]
[私が第七皇女と面識あるってどーしてバレてんの?]
[知らね]
[え。とりあえず、私は殺されないってこと?]
[うん。こっち側の内通者が見つかった。ほら、央の国の言葉で書かれた条約を取り替えた犯人]
[よかったじゃん]
[そしたら、そいつが、第七皇女はまだ央の国にいるってゲロったんだよ。拐ってきたのは偽物だって。したら、国王が偽物殺せって。で、皇后様が、偽第七皇女の立会人を提案。第二皇女が怪我して療養中だから]
[皇后様、感謝。でもさ、その内通者こそ立会人に相応しいのでは?]
[男だから]
[?]
[西の国の女性は、家族以外の男性に顔を見せられない。だから、そいつは皇后様の顔を見たことがない。ってか見られないわけ]
キラは不思議な文化を教えてくれた。
[とりあえず、皇后様とオレは、第七皇女を本物だと思ってた体になってっから。そこんとこヨロシク。オレ、包帯変えてくる]
[うん]
キラの背中を見送っていると、何かが突然私の背中にぶつかってきた。
[うっ]
倒れた私に、執拗にまとわりついてくる。激しっ。
はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ
息荒め。やっとの思いで仰向けになると、それは。
「ガオ?」
ぐーぐーぐーぐー言いながら、私に体を寄せてくる。ガオじゃん。
「本当に? あはは。ガオ」
ガオを思いきり抱きしめる。初めて。今までは檻の中から撫でることしかできなかった。こんなにもふもふだったなんて。
まさか。ガオがいるってことは。
「香香」
草むらから小さな声がした。
「雲嵐?」
塀の前にある草むらに駆け寄る。雲嵐!
そこには、大きな体を小さく折りたたんだ愛しい人がいた。
「会いたかった。香香」
雲嵐の目に見る見るうちに涙が溜まる。歪んでいく口を大きな手で抑え、声を殺して泣く。
きゅううう
心臓が苦しいほど捩れた。
雲嵐は「探した。生きてた」と手を伸ばして黒い布ごしに私を触る。その手は泥だらけで、ここへ来るのがどんなに大変だったかを物語っていた。
「逃げよ」
「え」
「こっち側には見張りがいない」
雲嵐は背後の塀を見る。その下は断崖絶壁。見張りがいるわけがない。
「どうやって来たの?」
「ガオの後をついて来た。ガオが。道をくんくんして、ついて来いって、オレの方見て」




