横領計画149倍
翌日、私は西の国の民族衣装を着た。開いているのは目の部分だけ。
向かうのは西の国の外交の大臣のところ。キラ曰く、皇后様管轄の屋敷には、現在、大臣といえども入ることはできない。よって、こちらから出向く。
馬車から眺めると、屋敷はまさしく断崖絶壁の上に位置していた。天然要塞。表門側こそなだらかな部分があるものの、周囲の6割は断崖。そちら側は見張りなんて必要ない。
外交の大臣は低姿勢だった。白い眉が垂れ下がった人の良さそうな恵比寿顔。幸いにも、第七皇女という名目上、めっちゃ好待遇。
「条約の不備、そして、承諾なく我が国へお連れしたことをお許しください」
あら、私の国の言葉を遣ってくれる。喋りやすい。
「2枚の条約が違っていたのはなぜでしょう。そちらを明らかにしてください」
「捕虜は、3日後に解放できると思います。皇帝が離れたところにいらっしゃいます故、もうしばらくお待ちください」
あ、話をすり替えらえた。
「条約が2国間で異なっていた原因は?」
少し張りのある声で再度追求。
予想外のことだったのか、大臣はビクッとなって床にひれ伏した。
「ただいま調査中でございます」
「では、途中経過を教えてください」
「条約に関わった者全員に事情聴取を行っているところです」
それは当たり前だろ。その結果を聞いてんのに。
このじーさん、詳細を話す気なんてないんだろーなー。しゃーない。こっちは小娘だもんね。
キラに訊いてみた。
場所は断崖絶壁の上の屋敷のふかふかベッド。部屋はさほど広くはなく、ど真ん中にベッドがあって、傍に大きな椅子がある。恐らくもともとは、戦争のときに位の高い武将が滞在する部屋。
[条約はどっちが本物?]
[こっちの国の。央の国のが偽物]
[やっぱり]
[香香、なんで分かんの?]
[支払いは銀っしょ。漢字の条約は銅になってた]
[確かに国同士は銀だよな]
他国との決済は銀が一般的。銅よりもかなり高価。条約では数値は同じだった。賠償額が銅だとすると少な過ぎる。銀だとすると巨額だけれど、これまでの戦費と考えれば納得。
銀と銅ではめっちゃ違う。西の国では、銀の価値は銅の100倍。うちらの国では150倍。西の国は国も人もお金持ち。銀山がいっぱい。それもあって、西の国は巨額の賠償額を了承したのだと思う。
ん?
央の国の条約が偽物だとすると……。
西の国は賠償金を銀で払ってくる。それは、央の国では銅の150倍の価値。けれど、央の国の条約は銅で受け取る。ちょっと待った。エグくね? 150倍で受け取った誰かが、政府に1渡して、149倍分をINマイポケット。
いやいや、まさか。そんな異次元の悪党いないって。
[はー。どーすんだろ]
ベッドの上、片膝を立て、もう一方を伸ばした姿勢のキラは項垂れる。
条約の内容は、主に外交の大臣同士が話し合い、それぞれの皇帝に了承を得てから作成した。西の国が調印する条約は、西の国が、自国の文字を遣って作成。央の国が調印する条約は、央の国が漢字で作成。それを交換して、それぞれの外交大臣が確認&保管。調印の日に至る。
という手はずだったと聞いた。
[ねーねー。偽の条約を作ったのって、西の国じゃないじゃん。それを言えば、有利になるんじゃない?]
悪いことしたヤツは、央の国側にいるのに、なんで西の国が困るわけ?
[条約の紙を管理してたのは西の国]
[あ、そっか]
[国境もなー。なんで片方だけ変えるとか、バレるだろ]
書き変わっていた国境は1ヶ所。他の場所は2枚の条約が一致していた。
異なるのは国境を隔てていた山の一部。ちょうど私はその山の麓に住んで道案内をしていた。山賊がいるような山。




