再会イケメン異人
自分の任務を遂行するだけ。胸から筒を取り出し、紙を広げた。
へー。ふむふむ。
私は西の国の文字なら読める。西の国の文字は数が少なく、シンプル。ほぼ発音と繋がっている。ちょうど、こちらの国のピンインの量を覚えれば完結する。
(注:ピンインは日本の平仮名に当たる文字)
紙に書かれた条約には、捕虜の解放、どこを国境とするか、どれだけの賠償金を支払うか、今後は戦争をしないことが書かれている。賠償金がエグい。西の国は銀で支払うのか。
偽皇后が持ってきた漢字で書かれた条約を読む。
あららら。
捕虜の解放、今後は戦争をしないはOK。国境、違うじゃん。賠償金を銅で支払うことになっるし。
[サインできません。内容が違います]
その言葉を、少し離れて馬と待つ燈実様に聞こえるよう言い放つ。
ピュ〜イ
ガッ!
即座に偽皇后が指笛を吹き、調印する机をひっくり返した。立ち上がった偽皇后はさっきより頭一つ分背が高い。男!
駆け寄る燈実様。目の前にバッと黒い布が広がり、燈実様が視界から消える。目を奪われた一瞬で抱き抱えられる。
バサッ
宙で黒い布が真っ二つ。裂け目から剣を持った燈実様が見えたとき、馬が駆ける蹄の音が近づき、
「うわっ」
いきなり体が浮く。私は馬の背中に荷物のように放り投げられた。すぐさま偽皇后が馬に跨ってくる。
[撤退]
偽皇后が野太い声で指示を出す。
「香香!」
後ろから燈実様の声と馬の足音。
助けろよ! 絶対守るって言ったじゃんっ。
たくさんの蹄の音と剣を交わす音も聞こえる。
うつ伏せのまま激しく揺らされ、振り落とされそう。見えるのは馬の胴体と地面だけ。偽皇后が私の腰をガッチリ抑えていて、逃げられない。
[放せぇ! クソ野郎]
ジタバタ暴れる私に、偽皇后が[危ない。落ちるぞ]と言う。
[てめぇ、偽物じゃん。卑怯者ぉ。下ろせぇ]
[お前も偽物だろ。皇女とは思えん]
どかっ
「うわっ」
落ちる! セーフ。たぶん、燈実様が馬を蹴った。並走してる? 音しか聞こえない。
「香香、捕まれっ」
燈実様、それムリ。どこに捕まるものあるのかすら見ることができない。馬の背に掛けられた荷物状態。
[ぐっ]
偽皇后が変な声を出した。
そのうち、他の馬の足音も人の声の聞こえなくなった。それでもまだ馬は走り続ける。走って走って走り続けて、やっとどこかに到着した。
馬から降ろされたとき、偽皇后の肩に短刀が刺さっていた。目の前がだんだん暗くなる中で、短刀に太陽が反射する。体に力が入らない。鞍が当たっていた脇腹が痛いし、ずっと下になっていた頭が爆発しそう。崩れ落ちていく私を偽皇后が受け止めた。
気づいたのは、肌触りのいいふかふかのベッドの上だった。頭がぼーっとする。額に違和感を感じて手をやると、ひんやりとした布が載っていた。夜? 灯りが灯っている。仄かに香る香辛料。
[気づいた?]
どこかで聞いた声がした。
起きあがろうとしても、まだ頭が重い。
[誰。どこ]
声の主が視界に入った。キラ? 下の下の下の仕事をしていたときに会った男。
[連れてきて、ごめん。あのとき、攻撃されないように人質が必要だった]
[……うん……]
[オレはキラ。皇后様の身代わりをした]
自己紹介をすると、キラは私をそっと抱き起こす。そして、背中に枕やクッションを置いてくれた。
あ、れ? 服が変わってる。西の国の服。硬く結い上げてあった髪は解かれている。それからもう1つ。キラと私は大きな1つのベッドの上。
[あ、の。着替えは……]
[医師に見せたから。そのときに。服、やったのはオレじゃない]
[医師に?]
[脇腹んとこから血が出てたから手当した]
見られとるやん。
[ありがとう]
[君、左のお尻に]
[え?]
[いや、ごめん。なんでもない]
脇腹だけでなくお尻も見られたっぽい。ううっ。




