科挙の威力すげー
「西の国へ行けば、お姉様がいらっしゃるのですね」
「ええ。姉は皇子と結婚しました。でも、今は未亡人。繋がりを強くするために私が皇帝の4番目の妃になるという話が持ち上がったのです」
えーっ。ちょっと待った。西の国との調印って、皇后が出るから皇后か皇女を出せって言われたんでしょ? もし西の国に瑞華様が嫁いだら、結婚したときに、調印した皇女が偽物ってバレちゃうじゃん。つまり、西の国はナシ。それ以前に、後宮は嫌なんだもんね。
「政治的に考えると、どれが得策なのですか?」
「私の他にも皇女はまだいます。なので、私は選べます。私が嫁がなかったところに別の皇女が嫁ぐでしょう」
「そうなのですね。ご結婚してから過ごしやすいところをお選びになるのはいかがでしょう」
「とすると、大臣家。香香が一緒に旅行している李氏も大臣家ですね」
「はい。李一族はどうですか?」
燈実様、推してみるね。
「私が国内で嫁ぐ場合は後継の正妻でなければなりません。それが暗黙の了解です」
「いろいろあるのですね」
あれ? 燈実様って後継? どーなんだっけ。
「李一族には数年前に後を継いだ者の孫がいるのですが、まだ若く、武官なのです」
それって、燈実様のことかも。
「武官はダメなのですか?」
「今は、国内の広範囲は平和ですし、科挙を合格した文官が重んじられます。李一族は貴族になって歴史が浅いのです。優秀ならば候補になっていたでしょうが、武官では」
うっわー。なんかレベチ。燈実様、勉強だー!
「平民から貴族になることができるんですね」
「李一族は何代も前、銅銭を流通させることに大きく貢献しましたので。そのときに貴族になりました」
李氏様と燈実様が1ヶ月に1度ほど訪れているのは銅採掘跡地。銅を掘ってただけでなく、銅銭の鋳造もしていたのかも。
「銅銭ですか」
以前、私は、国境で道案内と一緒に両替をしていた。この国の銅銭には私鋳銭が多い。私鋳銭とは政府以外が造った銅銭。政府が認めたものもあれば、勝手に造られたものもある。どちらも普通に流通している。国が広すぎ、金が要りすぎ、政府だけでは造るのも、流通させるのも、取り締まるのもキャパオーバーだったからと聞いた。
店を構えた両替商のオヤジは、私にはいかにも怪しい見た目の銅銭を渡してきた。使用できるとはいえ、店の信用を落としたくない。自分の店では出したくなかったから私に押し付けたのだと思う。まったく。
李一族の私鋳銭は、貴族になったくらいだから政府公認だろう。
「なんだか喋りすぎました。誰かに話したくても、話せないのです。勢力争いや人間関係があるので。聞いてくれてありがとう、香香」
「とんでもありません。瑞華様の幸せを願っております」
そう言うと、瑞華様ははっとする。
「嬉しい。国の安泰を願う人ばかりだったから」
最後に瑞華様は、燈実様の文の返事を後で届けると約束してくれた。
国の女性の中で2番目に偉い人は、下の下の下の私より、牢獄の囚人より未来に希望を持っていなかった。
「燈実様、文、届けてきました」
「ありがと」
「燈実様って科挙は受けないんですか?」
「いきなり何。受けたけど」
「え?」
「武官の科挙」
「武官用があるんですね」
「父は文官の科挙の受験勉強が死ぬほど嫌だったんだって。だからオレには何も言わない。李氏様は受かってる。文官だから当たり前だけど。あ、オレの父は武官ね」
「そーだったんですか」
「え、魅音が何か言ってた?」
「いえ、別に。訊いてみただけです」
「まさか、科挙の受験勉強してるかどうか聞かれた?」
「ないです。ないです。今から勉強とかは?」
「ムリ。オレ、脳筋。武官の科挙でも最低の出来で。父の息子ってことで合格にしてもらえた」
「……」




