嫌な縁談アルアル
「いえ、これといってしたいことはありません」
「食べたいものとか会いたい人とか。好きな人はいたの?」
なんて無邪気で正直なんだろ。既に過去形。殺される前提。たぶん無自覚。
「はあ。片想いですけれど」
「そっか。それが普通ですよね。私は、心を持たないために後宮に閉じ込められているの。政治の道具だから」
西の国の男、キラが話してた。友好関係を築くために王や妃は結婚するって。
「……」
「今、縁談話があるのです。それもあって、都を離れました」
「嫌なのですか?」
「北の国の王子に嫁ぐか、西の国のジジイの4番目の妃になるか、国の大臣の息子か孫に嫁ぐか」
品のいい言葉の中で浮く「ジジイ」。
「それもう、西の国は嫌っておっしゃられているのでは」
「ぜ〜んぶ嫌。西の国のジジイは生理的に嫌です。でも、もう息子はいるし、年寄りだからお務めが少ないかなと」
「はあ」
お務め。。。
「北の国の皇子は19歳で眉目秀麗と聞いています。しかし、とんでもない僻地」
「そこも後宮なのですね」
「いいえ。あの国は一夫一婦制。そこはいいのです。場所が。国の中心でも、ここより何もない、山ばかり。雪の季節が長くて。食事がこちらと違いすぎて。考えただけでもゾッとします」
「食事は大切です」
昔は碌なもん食べてなかったよなー。李氏様の家で舌が肥えた今、元の生活に戻るのは後ろ髪を引かれる。
「問題がもう1つ。後宮がないから出会いがあるのですが、他の人と恋愛をしたら殺されます。更には、この国に攻め込まれるかもしれない」
うっ。後宮が優しい制度に見えてきた。
「……」
「大臣の息子か孫というのも考えもの」
あれ? 李氏様は法の大臣の次男。燈実様は孫じゃなかったっけ。
「なぜ考えものなのですか?」
「候補は、大嫌いな外交の大臣の家か、経済を担っている大臣の家です」
燈実様、残念。
「嫌いなんですね」
「外交の大臣は、香香に身代わりをさせようとするようなインチキ野郎。嫁ぐとしたら孫です。科挙を受けもしないボンクラ。格好がつかないから、金にものを言わせて西洋に留学させたそうです。異国語を話せるようになりましたが、その地で落ちこぼれ、卒業できなかった男」
ジャッジ厳しーよー。なんか気の毒。科挙って難いんでしょ? 留学したら授業はオール異国語でしょ?
「……」
「経済の大臣は金に汚い。この国を賄賂天国にした張本人。私があの家に嫁いだら、ますます賄賂が集まるでしょう。それだけは避けたい」
「お相手の方は?」
「12歳年上です。その歳まで未婚なのは、皇帝の娘を正妻にするためなのです。計算高い」
「皇女様とは、大変なのですね」
同情。
「もし香香だったら、誰を選びますか?」
「どの方も素晴らしいお方。どうして私のような者が何か言えましょうか。ただ」
「ただ?」
「今のお話ではどのような方なのか分かりません」
「え?」
「朗らかな方なのか、誠実な方なのか、思慮深いのか、どのような趣味をお持ちなのか」
「考えたこともなかったわ……」
「あ、すみませんっ。違いますよね。庶民とは全く」
庶民が人柄を気にするのは、一緒に生活をして家庭を築くから。皇女の瑞華様は政治的な友好関係を築くために結婚する。築くものが違い過ぎる。結婚生活も全く違う。子作りのときしか相手に会わない可能性だってある。
「大事なことですよね。どんな風に子供を育てたいのかとか。私ね、後宮では子供を育てたくないの。母は8人子を産んだのです。けれど、今いるのは、男が1人、女は西の国へ嫁いだ姉と私だけ」
それは、8人のうち5人が命を落としたということ。奈落の闇。皇后の娘である瑞華様は後宮の最深部をご存知なのだろう。




