紅色サンザシ飴娘
2日も後に出発したのに、予定外に早く追いついてしまった。宿場町が第七皇女御一行と一緒。
気づかれないようにしなければならない。
が。李氏様に華がありすぎる。燈実様と御者も然り。
宿場町で日々に必要な細々したものを買い求めていたとき、私は侍女らしき女達に尋ねられてしまった。
「どこへ行かれるのですか?」
「一緒にいる殿方のどちらかは、貴方の夫なのですか?」
困った。
「いえ、私はお二人に仕えている者です。どちらに向かうのか聞いておりません」
他にも、今夜はどこに泊まるのだの、文を渡したいだの、めっちゃ2人のこと狙ってるし。皇女の侍女は身分が高い。だからなのか、御者は狙っていない模様。世知辛っ。ま、御者の方は女の補給に不自由してなさそうだけど。たびたび夜いない。
この宿場町には数日滞在する。李氏様が仕事の関係者と一席あったり、衣服の洗濯を頼んであったりで、少しのんびりできる。
この機会に護身術の鍛錬。
練習はハード。私の腕や脚にうっすら筋肉がついてきた。
体を動かした後は腹が減る。宿場町は賑やか。簪、すげ傘、筆。通りにはさまざまな出店があり、食堂や両替商まである。燈実様と私は出店で一休み。ゴマ団子が美味しい。
「燈実様、不思議に思ってたんですけど」
「なに?」
「法を司る仕事してる李氏様が、人拐いと繋がってるんですか? 私って拐われて李氏様のところへ来たんですけど」
素朴な疑問。
「ちげーし。そんなん思ってたの?」
「違うんですか?」
「人拐いが捕まったんだよ。それで被害者として解放されたのが香香」
「そーだったんですね」
「身寄りがないのに放り出すのもなんだし、李氏様が『じゃあ』って引き取ったんだよ」
「へー」
「一応、オレは反対したんだからな。下の下の下の仕事やらせるためって知ってたから」
「例えば解放されただけだったら、どーなってたんですか?」
「役所の前でバイバイ。終わり」
「酷っ」
そんな話をしていると、どこからか怒鳴り声が聞こえた。
「だからー、金払えって言ってっだろ」
声が聞こえる方では、私と同じ歳くらいの女の子が1人、ぼーっと突っ立っている。珍しいものでも見るように、呆けた顔で怒鳴っている男を見つめている。手には食べかけの紅色のサンザシ飴。(注:サンザシ飴は、みたらし団子状態のりんご飴みたいなお菓子)
上質の衣、結い上げられた髪、高価な簪、優雅な佇まい。何よりも、絵に描いたような世間知らずな振る舞い。まさか。
ゴマ団子を食べながら、私は隣の燈実様の袖をツンツンと引っ張る。
「ん? お。めっちゃ綺麗じゃん」
燈実様はゴマ団子をそのままに、すくっと立ち上がる。怒鳴っている男の前に瞬間移動。私も後を追い、女の子のところへ行った。
「何かありましたか?」
私は女の子に尋ねる。燈実様は盾となって男の方を向いている。
「この者が、金を払えと言うのです」
それを聞いた燈実様はドスの効いた声で相手を威嚇する。
「おい。カツアゲか?」
「ちげーよ。兄ちゃん。物欲しそうにしてたから売り物渡したんだよ。そしたら食ったくせに金払わねーんだよ」
それを聞いた燈実様は、食べかけのサンザシ飴の棒を持つ女の子に尋ねた。
「君、お金は?」
「持っておりません」
「このアマ、いけしゃあしゃあと!」
男は益々機嫌を悪くする。
「おいくらですか?」
私は値段を聞いて払った。
燈実様は、ナンパが成功したかのように悪戯っぽい笑顔で、女の子を先ほどの出店に案内する。
「ありがとう。助かりました」
そう言う女の子に燈実様はデレる。
「お金忘れちゃうとか、あるよね。いいから、いいから。奢るし」
払ったのは私なんだけど。ま、李氏様から貰ったお小遣いだけどさ。




