正因悪果悪因善果
牢獄の中は1人部屋から大部屋まで様々。明らかに1人部屋は待遇がいい。カーペットが敷いてあり、家具があり、化粧をしていた。囚人服じゃない。そして高待遇の者達は若くて美人。おかしい。
廊下を歩いて行くと、ゆらゆらと煙草の煙があった。横を見れば1人部屋、優雅に椅子に腰掛けた美人の囚人がいた。好戦的な視線で私を射抜く。
「1番の座は譲らないよ。次に出るのはアタシだから」
暗い中で目が異様にぎらぎらと光る。
1番? 出る?
「もうすぐ出所ですか?」
なんか、そんな口ぶり。
「アンタ、新入りだろ? いいこと教えてやるよ」
美人の囚人は桃色の服の袖から指を出して、ちょいちょいっと耳を貸せという仕草。私は耳を格子のところへ持っていく。
「刑務官の腹の出たオヤジとヤればいい。気に入られた順に出られる。花街に売られるとしてもさ、ここよりいいだろ。上手くいけば誰かの妾になれる」
腹の出たオヤジって、さっきのセクハラおっさん?
「その人って、牢獄の1番偉い人ですか?」
「そ」
げっ。
「気に入られたら、家具や服も良いものがもらえるんですか?」
私は1人部屋の中に目をやる。
「これは、客取った金で買ったんだよ」
「客?」
「出たときに金がいる。だから、客を紹介してくれる」
「そうなんですね。どんな?」
「まあ、ここいらの男。不便なとこだからさ、花街なんて近くにないんだよ。嫁にも困るとこだから」
「なるほど。それはここで?」
「金貰うんだもん。別ん棟。湯浴みできるんだよ、そんとき」
まるで湯浴みが金銭よりも貴重といった口ぶり。
「もしも普通にいたら、あと何年いるんですか?」
「アタシ? 出られない。強姦してきた男を刺したんだ。死ななかったけど、死にかけたからな」
「それ、正当防衛じゃん」
「ムリムリ。地主の息子だったから」
「そんな……」
「そんなもんだろ。家族は村にいられなくなってさ。ここへ来て思った。やられときゃよかったって。今なら平気かも」
「絶対、そんなことない。女襲うようなヤツ、死ねばよかったんだ」
思わず声が大きくなる。
「アンタ、名前は?」
「香香。あなたは?」
「言うかよ。もうすぐ出るからさ。もう古い名前は捨てる」
「そっか」
「またな、香香。上手くやれよ」
囚人だと思われてるし。なんとなく否定しづらかった。
しっかし悪いことやってんなー。あの刑務官のセクハラおっさん。
「香香、考えごと?」
馬車の中、ぼーっとしていると、燈実様に声をかけられた。
「ええ。まあ」
「牢獄、ショックだった? でも、遠くからだろ?」
「遠く?」
なんでも男の牢獄の方は、高い場所に通路があり、下の方にある部屋を離れた場所から見下ろすと言う見学だったらしい。角度的にほとんど人は見えないとか。私がかぶりつきの特等席で見学したことを話すと、李氏様から謝られた。
「それは申し訳なかった。可哀想に」
セクハラおっさんは、私に不快な思いをさせることが目的だったんだろーなー。
「以前は下の下の下、女の囚人だったんですよね。なんか、下の下の下とどっちが良いのか考えちゃって」
そう言うと、燈実様が「そんなに酷い?」と顔を顰める。
「自分が傷つくってことじゃ、下の下の下の方が辛いのかな。衛生的には下の下の下の方がずっといい」
希望がないことはどっちも一緒。
違う。
牢獄の美人の囚人は希望を持ってた。刑務官が悪事を働いているせいで。
馬を休めるために馬車が止まったとき、御者に話す。
「あの、刑務官のトップの人がモテ自慢してたのとか、仕事で上手いことやってるって言ってたって話」
「ん?」
「忘れてください」
「分かった。なんかあった?」
「案外世の中、上手く回ってるのかなって」
「なんだよ、それ。ははは」




