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天誅秘技股間蹴り

 握られた手をさっと手を引っ込める。



「何をおっしゃるのやら」



 キッモ。言いながら、見えない所で手を服でふきふきしていると、おっさんは(おもむろ)に立ち上がる。もう、どっか行ってくれ。



「ウブなふりも計算か? 可愛いなぁ」



 今度は私の隣に座ってきた。イーヤー! さりげなく私が席を立つと、おっさんも立ち上がって体を寄せてくる。今こそ修練中の護身術を試すとき。相手の腕を……。

 肩を抱かれたのと、部屋の扉が開くのは同時だった。



 キィィ

 どかっ



香香(シャンシャン)っ」



 振り向くと、駆け寄ってくる御者。

 そして、床には股間を抑えて転がるおっさん。

 


「あ。着替え終わりましたか?」



 私は御者に笑顔を向けた。一方、御者はおっさんを抱き起こし、椅子に腰掛けるのを手伝う。



「大丈夫ですか?」



 御者の優しい言葉は私じゃなく、おっさんに向けられている。心配そうな眼差しも。このイケメンまつげ長っ。


 せっかく護身術を実践しようと思ったのに、反射的に、股間を蹴り上げてしまった。



「申し訳ありません。大丈夫ですか?」



 一応誤った。手を払いのけるくらいでよかったよね。



「こんのアバズレ!」



 おっさんは私を睨み、ペッと私が飲んでいたお茶に唾を吐いた。

 それから、御者に体を支えられながら部屋を退場。



 しばらくすると御者が戻ってきた。



「香香、どーした。乳でも揉まれた?」


「肩抱かれました」


「は? そんだけで? うっわ。かっわいそー。そりゃねーわ」



 御者が呆れる。



「気がついたら体が勝手に動いてたんです」


「ま、李氏様や燈実様より位が低いから、仕事に支障はないだろーけど」


「すみません」


「さっきのおっさん、刑務官のトップ」


「そーだったんですね」


「オレがもうちょっと早く来ればよかったな。ははは」


「マジでキモくて。あのおっさん、自分でモテるって言ってました」



 あまりの狂言に呆れて、ふんっと鼻を鳴らす私。



「へー。男って単純なんだよ。若い子の前でカッコつけたかったんじゃね?」


「上手いことやってるとかいい仕事だとか」


「上手いこと。仕事。なんだろな」



 2人で李氏(りし)様と燈実(とうみ)様を待つ。その間に世間話をしたりしなかったり。

 



 部屋の暖かさにうつらうつらしていると、李氏様と燈実様が戻ってきた。不愉快なことに、さっきのセクハラおっさんまで一緒。



「これから牢獄の方を見学する。もう少し待っててくれないか?」



 扉の近くから李氏様が、御者と私に声をかける。



「「はい」」


「では、案内をお願いしよう。ここは女の囚人もいると聞く」



 李氏様がおっさんに言うと、おっさんはニヤニヤと私の方を見た。



「お見苦しい姿の女もいるんです。女の牢の方は、あのお嬢さんに見てもらうのはどうですか?」


「そうだな。では香香」



 呼ばれたので立ちあがろうとすると、正面に座っていた御者が小さな声で「断れ」と言う。「え? でも」。雇用主に言われたことを断るわけにはいかない。続けて御者は「養豚場行ったことは?」と。「ある」と小声で答え、立ち上がった。

 


「はい。承知致しました」



 おっさんは李氏様、燈実様と共に別棟へ行った。私は女の囚人の棟の入り口で別の男に引き継がれた。男が格子の扉を開けると、長い廊下があった。廊下の両側に格子のはまった部屋が並んでいる。

 御者の言葉は、私に心の準備をさせるものだと分かった。通された棟は汚物の臭いがする。暗い。寒い。



「みんな牢にいるから。ぐるっと一周して戻っておいで」



 えー。そんな雑な案内?

 歩いて行くと、囚人達が口々に話す。



「あんた、面会?」「縄ついてないじゃん」「お気に入りかよ。若いもんな」「阿片くれー。阿片、阿片」「盗みか。姦通か。殺しか。あははは」



 酷い悪臭が鼻をつく。


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