寒春荒野の謎要塞
「そ。港の使用許可は経済」と燈実様。そして続けた。
「父が軍事部門でさ、硫黄の輸入を増やすとき、許可証を経済部門に取りに行ってた」
「硫黄?」
硫黄って温泉地の臭いやつだよね?
「火薬の材料。東の国からの輸入品だから、外交の方にも話つけてた」
「へー」
頭の中を整理しよう。
李氏様の元上司は法部門から外交部門へ移った人。要するに外交部門の人が経済部門が発行した港の使用許可証を、寺に天下りした元経済の副大臣に渡した。
……。
「あの住職、船持ってるんですよ、きっと」
だから許可証を貰った。
「今は出家して寺にいるが、元は貴族。家庭もあったはず。昔の家族が船遊びをするために出してもらった許可証かもしれない」
「いえいえ李氏様、貴族は特権階級。船遊びに許可証は要りません」
燈実様の言葉に、思わず貴族を妬んでしまう。船遊びかぁ。船乗ってみたいよー。李氏様も燈実様も貴族だから船持ってるかも。
「ならば、品物を運ぶ船か」
「住職って何運ぶんですか? 墓石?」
「燈実、墓石は山から。河を使わない。まして、華港使用許可証は海の港の許可証」
あふぅっと欠伸。私には関係ナシ。分かんないことは考えない。
「都に帰ってから経済部門へ行って調べます。その番号の許可証を誰に出したのか」
と燈実様。それって、何ヶ月先になるんだろ。
夕食の後、宿で旅の疲れを取る李氏様、燈実様、私。
「あら、御者の方は?」
「あ”ーアイツ、定期的に女を補給しないとダメなタイプだから」
何それ。聞いたことないし。
裁判所ねー。
ある日、馬車は厳しい建物の前で停車した。城壁のように高い壁、門には分厚い扉。先に行った裁判所に比べて格段にでかい。荒野の真ん中にでーんと要塞のように聳え建つ。
ヒューヒューと風の音。春を忘れるほどの冷たい雨が吹きつける。
「酷い天気だな。香香も建物の中で待ちなさい」
「はい。そうさせていただきます」
悪天候だから御者も一緒。4人で建物の中へ入った。
建物は裁判所&牢獄だった。だから荒野の真ん中にあって、塀が高かったのか。
李氏様は支部の長に会う。燈実様はそのお付き。御者はずぶ濡れだったので着替え。
私は暖かい部屋に通され、お茶を振る舞われた。私の設定は、李氏様と燈実様に仕えている者。上流の平民。服装を見ればそれと分かる。
「よう、嬢ちゃん。酷い雨だなぁ」
でっぷりと腹の出た中年のおっさんが部屋に入ってきた。
「雨宿りさせてもらっております。ありがとうございます」
おっさんは、テーブルを挟んで正面にどかりと腰を下ろした。気さくで饒舌。にこにこと談話していると、突然、おっさんが意味深な目をした。
「な、どっちの女?」
「え?」
「都からこんなとこまで一緒に来るなんて、そーなんだろ?」
めっちゃニヤニヤしてるし。でもまあ、そう思うよね。
A. もしも昔の自分だったら、「キモいこと言ってんじゃねーよ」とはっ倒す。
B. もしも貴族の姫君だったら、「屈辱ですわ」と泣く。
C. もしも湯圓ババアだったら、「まあ、心外です」と微笑む。
逡巡。
「だったら楽しいんですけれど。うふふふふふ」
オリジナル。なんか、ちょっとだけ湯圓ババアが入ってきた。
「はっはっはっは。なー、嬢ちゃん、上手いことやってんだな。オレ以上だぜ」
ん? オレ以上? このおっさんは何を?
「ま。おじさまも隅に置けませんのね」
と返してみた。ら。
「モテモテ。いい仕事だよ。全く」
仕事でモテる? こんな荒野の真ん中で? 職場は男しかいなさそうなのに?
「近くに花街か酒場でもあるのですか?」
「そりゃー言えないな。玄人もいいけど、素人はたまんないぜ?」
「やだぁ。もう。うふふふふふ」
よく分かんないけど、笑っとこ。
「嬢ちゃん、男の扱い慣れてんな?」
おっさんは突然、テーブルの上の湯呑みに添えていた私の手を握る。ぞわっ。凍るような悪寒。




