エリート天下り寺
「どうかなさったのですか?」
捨て置かれた李氏様の扇子を拾い上げると、燈実様がそっと受け取った。
「乱れとる」
李氏様は吐き捨てる。あらら。住職が酒肉和尚+αだったことを知ったんだろーか。
「なんかさ、だんだん不機嫌んなっちゃって、とうとう扇子折っちゃって」
燈実様が耳打ち。これ、自分で折ったの?!
「聞こえてるぞ。燈実」
「「……」」
「綺麗な僧ばかりだった」
「確かに。そーでした。オレも思いました」
「……」
「高い位の僧はケツに数字があった」
異能。そーいえば李氏様は、男でも男性の経験人数が分かるって言ってた。
「「……」」
「新米の僧の中に一際綺麗な男がいた。色々お手つきされていた。たぶん、あの者が出世する」
No. 1だ、それ。1番出世。
御者はかなーりイケメン。そーゆーことか。
「それで不機嫌だったんですか。オレはてっきり、住職のお触りが激しいからかと」
「燈実」
「すみませんっ」
「恐らく、住職が諸悪の根源だろう。私がここへ使いをさせられたのは、住職が私を見たがったのかもしれない」
李氏様って綺麗だもんね。きっと官僚の間でも有名なんだ。
「燈実様は大丈夫だったんですか?」
燈実様もイケメン。
「オレ? 好みじゃなかったんじゃね?」
なるほど。燈実様は色気が足りないかも。ガキっぽいもんね。
「御者の方、スカウトされたっておっしゃってました」
とご報告。ちなみに御者はタレ目に泣きぼくろつきで妙に色香が漂ってる。
「はっ」
李氏様は顔を歪めた。燈実様は大笑い。
「マジかよ。アイツが僧? 禁欲生活? はははは。見たいわ、剃髪姿」
「それが、禁欲生活しなくてもいいそうですよ?」
ペラペラとチクっちゃった。
「忌々しい。二度と来ない。生臭坊主め」
「ルール破ってるのに捕まらないんですか?」
しょっぴけばいーのに。
「法には触れていない」
「だなー。僧としてあるまじきってのはモラルの問題だもんなー。なんかあったって特権階級の聖職者。簡単には裁けないって」
燈実様は、男色は僧の間では常識で、酒と肉は笑い話で、拝金主義はあるあるだと教えてくれた。
チクリついでにもう1つ。
「李氏様が立派な香炉、お持ちしましたよね。あの中に札が入ってました」
「「は?」」
「華港使用許可証の六零八と河港使用許可証の一二か三の札。何となく蓋開けたらありました」
「何だろうな。気になる。港の使用許可証をなぜ住職が」
李氏様は首を傾げながら、「六零八」「一二」か「三」と手記に書き留めた。
「華港。外国との貿易用は、あの港だけですよね? 李氏様、元上司って誰です?」
燈実様が尋ねる。
「外交の部門へ異動した陳氏」
「ああ、あのヒゲの薄い」
「そーそー」
「異動があるんですね」
世襲かと思ってた。李氏様の祖父が法の大臣だから。
「ほとんどない。陳氏は外交の大臣と同郷で、大臣が推薦したんだよ。法にも明るい者が欲しいと」
「港は治安、悪いっすもんね」
なるほどー。だから異動。
御者から聞いた。住職は元エリート官僚って。寺って天下り先なわけね。
「住職も外交の部門の方だったんですか?」
私の質問に、李氏様は「経済の副大臣やってた」と教えてくれた。
李氏様の屋敷の書庫で政府の組織を知った。内閣というものがあり、その下に6つの部門がある。経済、農、軍事、土木、外交、法。
経済は財政を取り仕切る。農は国の7割を占める農民の管理と農業に付随する業務。軍事は燈実様と御者が属してるとこ。土木は大規模な公共事業担当。外交は私が巻き込まれたようなことに絡んでる。法は李氏様が所属。
「じゃ、港の使用許可証を出すのは経済部門なんですか?」




