異能発揮場所不問
長い旅が始まった。
移動は目立たぬように粗末な馬車。但し、中はゴージャス。ふわふわのクッションや枕、高価な膝掛けが用意されている。
御者は燈実様と同じ部署の武官。但し、御者ファッション。イケメン。ちょっとチャラい。
李氏様は私に紹介するとき、またもや「いい仕事しただろ?」的に扇子の下で親指を立てた。
御者は身代わりのことも、下の下の下がビジネスってことも知っているらしい。
「大丈夫。口硬いから。女癖は悪いけど」
と燈実様。その2つが同居するって、あんま、イメージ湧かない。
「気をつけます」
燈実様に答えると、とんだお門違いだった。
「あ”ー。大丈夫。香香に……仕事関係に手ぇ出すほど不自由してねーから」
ん? 言いかけたよね。ホントは「香香に手ぇ出すほど」って言いたかったんだよね?
離れた場所にいる御者にちらりと目をやると、道行くお姉さん達の視線を集め、それに笑顔を返している。チャッラ。
異能は場所を選ばない。
馬車の中から行き交う人々を眺める李氏様は、額に手をやって奥に引っ込み、へたり込む。
「どうなさったんですか?」
「数字が見えすぎる」
「難儀な異能ですね。いつもだって見えてるんですよね?」
「職場はほとんどが男だから、たまにしか数字は見かけない」
そこで燈実様が茶々を出す。
「職場に出入りしてる年配のご婦人が0で、気の毒がってましたね。オレ、どの人か分かっちゃいました。はははは」
この異能、女の敵。
「こら、燈実」
「あの人は未婚だから仕方ないですよ。逆に未亡人なのに数字が増え続けてる人の方が……」
「こーら、燈実」
身近にそーゆー人がいるわけね。
叔父と甥だからか、上司と部下というよりも、兄弟っぽい。
馬車が止まった。
大きな寺の前。高い塀は城壁のよう。分厚い門扉。塀の上に反った屋根が見える。なんだろ。この感じ。めっちゃ金の匂い。
「馬を休ませるんですか?」
ぴたりと閉じた門扉は侵入者を拒んでいる。たとえ開いたとして、女や馬を入れてくれるんだろうか。
「元上司から頼まれたものがある。ついでに馬に飼葉を分けてもらおう」
約束済みなら通してもらえるよね。
御者が門扉の横にあった銅鑼を鳴らすと、塀の上の見張り台から誰かが確認してる。塀の上が歩けるようになってるじゃん。手すり付き。まるで戦いのための砦。
門扉が開いた。
馬車で通り抜けると、広大な広場があり、それを囲むように建物があった。馬車はすぐ左に折れて進むよう促され、立派な建物の前で李氏様、燈実様、私を下ろしてどこかへ案内されて行った。
李氏様、燈実様と共に豪華な部屋へ通された。壁一面に見事な梅と鳳凰が描かれている。勧められた椅子は彫刻が施され、ストイックとは正反対のものを感じる。
色白の下膨れ、お肌てかてかの住職が現れた。美味しいもの食べてそう。
「おお! 貴殿が李氏様ですか」
住職は感嘆。駆け寄ると李氏様の手を取り、過剰な挨拶をする。ベタベタと肩や腰に触れ、手をにぎにぎ。李氏様、めっちゃ嫌そう。
「このように素晴らしいものを。なんと趣味の良い。運んでくださりありがとうございます」
テーブルを挟んで李氏様の正面に住職。李氏様が手渡した木箱には香炉が入ってた。蓮の模様で、てっぺんに金色の獅子が鎮座。縦横高さ1尺(30センチ程)以上。特大。へー。これが元上司からの頼まれもの。
「文も預かっております。とても感謝していると申しておりました」
李氏様は住職に文を渡した。




