オレ絶対守るから
湯圓ババアに尋ねた。
「私が下の下の下だとご存知なかったのですか?」
「聞いております。それでも、抜擢された理由が、命を軽んじることと思いたくなかったのです」
湯圓ババアは丸い手で私の手を取り、もう一方の自分の手を重ねた。それに応えるように、私ももう一方の手を重ねる。
「務めを果たし、生きて戻ります。圓佳様、感謝致します」
小さくて丸い体に真心。私を下の下の下と知りながら、誠意を持って接してくれた。短期間の付き合いでしかない私に最も必要な言葉をくれた。
湯圓ババアの名は湯圓佳。やっぱ白玉団子じゃん。
まず、李氏様と燈実様に相談した。
「だから私が一緒に行くと言ったんだ」
李氏様は、事が終わったら私が殺されると分かっていた。燈実様は具体的だった。
「調印するのは、香香が住んでた近くだよ。そこに軍の建てた司令部がある。歩いて行ける今の国境ーーー野外で調印。待機場所の司令部でチェンジ。狙われるのは調印の後かな」
「そうですか。何とかせねばなりませんね」
私の言葉に、燈実様はおおっと驚いた顔をする。
「香香、言葉、綺麗になってっじゃん。さっすが圓佳様」
「勉強させていただきました」
「なんか、調子狂うな」
「詳しくお聞かせください?」
「和平条約の内容はもう決まってて、香香は西の言葉で書いた文書を持っていく。向こうは漢字で書かれた文書を持ってくる。交換。で、向こうは西の言葉で書いた文書にサインする。こっちは漢字の文書に第七皇女の名前でサイン」
「大臣は私が字を書けるとご存知だったのですか?」
そうじゃなきゃ依頼しないよね。
「ううん。ちげー。大臣はたぶん、ほとんどの人が読み書きできないってことを知らない」
「え」
マジで?
「仕方ない。貴族に生まれて小っさなころから家庭教師つき。学校じゃ、周りは読み書きできる人間しかいないからさ。それが普通だと思ってるんだろ」
「そうですか。では、サインが終わったらどうするのですか?」
「司令部に戻って第七皇女と入れ替わる」
「調印の場所までは歩くのですか?」
王族の姫君が自分で歩く姿を想像できない。国境は戦争のときの最前線。司令部はそれよりかなり手前だろう。
「まさか。輿か馬車か馬」「馬!」
燈実様の言葉に被せ気味に訴えた。
「馬。馬にしてください。輿は銃や弓で狙われ易い。逃げ場がなくてすぐ殺されます。馬車は、帰りに中に潜まれたら終わりです。馬車を降りるときに来られたら、出口を塞がれます」
「「……」」
「馬で司令部じゃない場所へ逃げます」
もう、いっそのこと、そのまま元の生活に戻るのもアリ。
2人はふーむと考える。そして李氏様。
「そうだな。馬を提案してみよう。但し、馬の場合、燈実1人しか同行できない。相手が輿だったら、襲われたとき不利だが」
輿は4人で担ぐ。
「西の国は、襲ってくるかどうか分かりません。でも、こちらの国は絶対です」
私はキッパリと断言した。
李氏様は燈実様にちろーんと横目で視線を送る。
「燈実は香香を守らなければいけない。な、燈実」
「ごめん、香香。父に、西の国境で道案内してたって話、しちゃってさ。父はさっきの大臣と知り合いで。そっから話が。マジ申し訳ない」
お前かーっ。西の言葉話せるって喋ったの。
「……」
「こんな危険な役目。オレ、絶対守るから」
当たり前だろ、お喋り男。
でもま、下の下の下として檻で過ごすことに病み始めてたし、いいタイミングだったのかも。
「自国の者達には私が第七皇女ではないと分かってしまいますね」
「それはない。顔が見えないくらいには離れて見守る。接近してたら、何のために女を出すのか意味がなくなる」
へー。




