口封じの常套手段
食事の時間は地獄。注意されっぱで味しないし。
朝起きたときから寝るまで気を抜けないってどゆこと?
「あの、休憩時間が欲しいです」
要求してみた。
「今、休憩時間ですよ。一緒にお菓子を頂いているじゃありませんか」
湯圓ババアは優雅に丸い手を添えながらお菓子を2つに分ける。
一緒にいたら休憩んならないんだよっ。食べ物は拳大までなら1口で食えるし。
3日目、昼食後。やってらんない。
あまりに注意されるから一時避難。休憩くらいしたいって。
ってことで木の上で読書。季節がら葉がなくて丸見え。でもさ、まさか、こんな所にいるとは思わないよね。
ヒュンッ
ひっ
私のすぐ横を何かが通り、全身が凍りつく。小枝がぱらぱらと3本ほど落ちた。
木の下、少し離れた場所に小さくて丸いフォルム。湯圓ババアが仁王立ち。丸い体の両脇に手をやって、品のいい笑顔を浮かべている。後ろを見れば、少し離れた地面に長い槍が刺さっている。このババア、できる。
槍の方が身長より長いんじゃね? あんな短い腕でどーやって投げたんだろ。
「私、槍投げには自信がありますの。うふふふふふ」
殺られる。
耐えよう。短い間だけ。下の下の下の仕事に耐えてきたのに、これに耐えられないわけがない。頑張れ、自分。あれは刺客だ。湯圓ババアに殺られないように頑張ろう。
「特に立ち振る舞いを練習いたしましょう。遠くから見た佇まいは、とても大切です。椅子への腰掛け方。輿の乗り降り、筆を使う時」
極秘も極秘のことだから、どこまで聞いているかすら尋ねていない。「筆を使う」という言葉から察すると、湯圓ババアは私が調印することを知っていそう。
5日目、翠蘭に泣きついた。
「すいらーん。もう無理。歩くのも座るのも立つのも食べるのも嫌」
翠蘭の首に腕を回して愚痴っていると、、、
!
床に布の擦れる音がする。ヤツだ。ヤツが来た。私は急いで翠蘭のスカートの中に隠れた。
「あら。このようなところに。はしたないこと。うふふふふ」
くそっ。引きずり出されたし。そのまま渡り廊下を引きずられるようにして、いつも授業をする客間に連れて行かれた。背は私の肩までしかないのに、どんだけ力あるんだよ。槍投げでムキムキの腕かも。
客間に入ると、椅子に座るよう促された。はいはい。もう従いますよー。
しばらくすると、お茶とお菓子が用意される。テストかも。一口でいけるけど、品よく食べりゃいーんっしょ? そう思っていると、湯圓ババアはじっと私を見て、いつもの何考えてるか分かんない微笑みを浮かべる。
「だいぶできて来ましたよ。短い時間であれば大丈夫かもしれません」
ちょっとくらい褒めたって、騙されないからな。今度はもっと細かいこと教えられるんだろ?
「これも先生のおかげです。ありがとうございます」
品よく返す。自分の喋ってる言葉キッモ。
「香香、護身術は何かできますか?」
とーとつ。
「いえ、特には」
「殺されますよ」
湯圓ババアははっきりと言い放った。
何を今更。殺されそうだから、下の下の下に身代わりさせるんじゃん。
「危険なことは承知しております」
そう言うと、湯圓ババアは少し悲しい顔をして小さく息を吐いた。
「大臣の手の者にです」
「っ」
そうだ。身代わりはバレてはいけない。その常套手段といえば……。
「燈実様に身を守る術を学んでください。立ち振る舞いよりも大切なことです」
「あ、ありがとうございますっ」
迂闊すぎる。言われるまで自国の者に殺されることを想像できないなんて。
「香香。私は、あなたが武勇に優れた方だと思っていたのです。だから今回の大役に抜擢されたのだと。違うのですね」




