表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/253

身代わり和平条約




「は? 身代わり?」



 李氏(りし)様の屋敷に外交を司る大臣がご来訪。ご指名を受けた。

 (ろく)ななことじゃないって分かる。()()()が仕事ってことは、李氏様、燈実様、翠蘭、私しか知らない。つまり、大臣は私のことを心底「下の下の下」だと思っている。そんな人間に身代わりをさせるなんて、汚い、キツい、危険、帰れない、厳しい、給料がない仕事。


 下の下の下の服のままのため、客間中に臭気が漂っている。大臣はあからさまに眉を顰め、鼻と口を袖で覆ったまま。臭いが嫌なのか、下の下の下と同じ空気を吸うのも嫌なのか。たぶん両方。



香香(シャンシャン)という者、西の言葉を話すそうだな」


「はい」



 いったいどこからそんな話が。兵士達と大臣に接点があるとは思えない。外交を司る大臣と接点があるとすれば、同じく文官の李氏様?


 一刻も早く下の下の下と離れたかったらしい大臣は単刀直入。



「我が国は、長年、西の国境辺りでの戦争に悩まされている。そこで、先日やっと、和平条約を結ぶことになった。ところが、向こうは、穏やかにことを進めたいから皇后を代表として出してくる。こちらにも女ーーー皇后か妃か皇女を出せと言ってきた」


「はい」



 なるほど。西の国の言葉が分かるから通訳とか?



「香香とやら、行ってこい」


「ええ? 通訳に?」「ん、ん」



 部屋の隅にいた燈実(とうみ)様が喉の調子を整える。

 なぜ私なのかという疑問には、李氏様が答えてくれた。



「命を狙われる危険があるからだ。通訳ではなく、第七皇女として」


「はあ?!」「ん、ん」



 燈実様は喉の調子を整え、大臣は計画を述べる。



「調印を行うのは西の国との国境。そこまでは行くのに何日もかかる。皇后様は体力的に難しい。そこで、皇后様の娘である瑞華(ルイホァ) 様に決まった。瑞華様は16歳。香香とやらと同じ歳」


「やはり、香香には役不足ではないでしょうか」



 李氏様が難色を示す。



「調印のときだけだ。私は瑞華様が大変な長旅をする必要はないと申し上げたのだが。身内の中にあちら側の内通者がいるかもしれないとおっしゃる。単に、宮廷生活に飽きておられるだけなのだ。どうも瑞華様は自由奔放で。今回のことも旅行気分。ま、周りの者にとっては、下の下の下より瑞華様がいいだろう。とにかく、現地で入れ替わる。調印はすぐ終わる」



 周りの者にとってーーーつまり「下の下の下と一緒に旅するなんて、ちょっと」ってこと。ま、そーだよね。



「調印がメインですが」



 そーだそーだ。頑張って拒否って、李氏様。



「しかし、向こうの罠にまんまと()まるわけにはいかん」


「そちらには有能な宮女がたくさんいるはずです」


「何かあったらどうするんだ!」



 出たよ、本音。なんかもう、見え見え。殺されてもいい下の下の下にやらせるって。

 下の下の下は断ることなどできない。通常なら。でもさ、私はビジネス下の下の下。割に合わない。死ぬのが怖くないってのは本当でも、利用されて死ぬなんて真っ平。



「立ち振る舞いから偽物とバレますよ」



 反撃してくれる李氏様を心の中で応援する私。ちょっとディスられてるのは無問題(もうまんたん)


 

「あああ、向こうと同じ民族衣装にしたいくらいだ。あっちは頭からすっぽり布をかぶっていて、目しか開いていない。絶対に偽物を出してくる」



 大臣は地団駄を踏む。こっちだって偽物を出すくせに。



「もし向こうが本物だったらどうするんですか?」「ん、ん」



 私が素朴な疑問を投げかけた。またまた燈実様は喉の調子を整える。



「そのまま調印すればいい」


「国の信用に関わることなのに、そんな詐欺まがいのことしていいんですか?」「ん、ん、ん、ごほっごほっごほっ」



 私の物言いが聞こえないほど、燈実様は咳を大きくした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ