イケメン4.異人_キラ
私は男と同じ西の国の言葉で答えた。
[奴隷じゃない]
国の中心だけあって、この街には外国人が多い。
[捕虜か?]
[違う。下の下の下]
男は大きな口を開け、訳が分からないという顔をした。オーバージェスチャー。
[下の下の下? なんだそれは]
[1番位の低い者]
[王の反対か?]
[そ]
[そっか。1番上は王って? 確かにそう思うだろう。だけどさ、王ってのは、国の奴隷だ]
何コイツ。かっこいいこと言ったぞオレ、的な空気出しちゃってさ。王のセリフだろ、それ。護衛も連れてないヤツがゆーなよ。
[何が奴隷だよ。政治を官僚に任せて、贅沢して、妃いっぱい囲って好き放題女に手ぇ出すんだろ?]
立っていた男はしゃがみ、私と目の高さを合わせた。
[政治の決定権は王にある。
それに、世継ぎをつくるのは義務だ。
いろんな民族や地域を治めるために、その土地と友好関係を築く生贄が要る。王と妃の結婚なんて生贄]
[クソみたいな方法]
[はははは。オレもそう思う。クソだクソ]
男は心底おかしそうに笑った。
[でもさ、後宮は他の女もいっぱいじゃん? 西の国もこっちの国も]
国が違っても同じように、自由を奪う特大の女達の檻がある。
目の前の男が言うところの皇后、妃の他に、たくさんの侍女、下女。頭に翠蘭の顔が過った。
[ははは。後継者の種蒔き畑だからな。好きな女抱けないのと、キモい女ばっかと子供作んなきゃならないの、どっちが苦痛か分かるか?]
男は碧色の目をくりくりさせて、楽しそうに話す。
[知るかよ。かんけーないし]
[なくはない。1番上がいなかったら、1番下だってなくなるかもだろ?]
アホかこいつ。不敬罪で捕まるっつーの。異国の言葉でよかった。
[無理っしょ]
[さっき、政治は官僚がやるって言ったじゃないか]
[決定権は王なんでしょ?]
[決定権も官僚の審議に任せたら?]
[どこの国も王がいるじゃん]
[そんなことない]
聞いたことない。
[?]
はあ? って感じで顔を顰めると、男はムキになった。
[あったんだって。すっげー昔に遠くのギリシャってとこ。それから、16年前に小さい国が。そこは王が退位して、みんなに政治の権限を渡したんだよ]
両手で鉄格子を掴んで一生懸命に喋る。興味なし。
[あっそ。で?]
[そーゆー国に変えるの、良くね?]
[変わんないよ。みんな税に苦しんでさ。金があるやつだけが政治と繋がっていい思いする。政治やってるヤツらはみんなの生活知らねーじゃん]
[この国の人は、そう思って生きてるのか?]
[さあ。都会は知らない。農村部は、そんなん考える暇ないよ。暮らし厳しくて]
[そうか。……オレはキラ。名前は?]
[香香]
[じゃあな、香香]
キラが去った後、その場に香辛料のような匂いが残った。
変なヤツ。まるで自分が王か官僚みたいな口ぶり。同じ歳くらいにしか見えなかったのに。
「な、香香。西の国の言葉、分かるのか?」
警備の兵士に訊かれた。
「うん。西の国境近くに住んでたから。旅する人に道案内してたし」
「そっか、だからか。あの辺、戦争多くて大変だろ?」
「慣れた」
「おいぃ。慣れるな。そんなん」
戦争は儲かる。人を逃す、武器を運ぶ、食料の売買、どれも通常とは異次元の値段になる。私は危険な場所で、人が命のために投げ出す財を懐に入れた。調子こいてた。自分は死ぬなんて怖くないって。
そしたら、兄が戦争から帰ってこなかった。自分が死ぬことは想像してたのに、身近な人が死ぬなんて夢にも思ってなかったな。
戦争をするかどうかを決めるのも王や皇帝なんだっけ。




