豪華絢爛後宮魔窟
どう考えても一族の繁栄に繋がりそうにない李氏様の異能。それについて語り合うのは難いって。話題変更。
「洞窟にあった石、不思議でした。あれって、異能の人が水かけると字が出るんですか? しかも、すぐ消えたし」
李氏様は、色っぽく「ふっ」と微笑む。
「不思議だろ? あれはな。誰でもできる」
「え、手品?」
「さあ。それは知らん」
「石に仕掛けがあるんじゃね? 国が新しく生まれ変わるなんて、不敬罪だからね」
と燈実様。
「李氏様の子か孫は、どんな異能なんでしょうね」
ぽろっと出た言葉への返答に驚いた。
「翠蘭は子ができない」
「えっ?」
燈実様はもう聞いているのか、驚いていない。
「妃にとって1番困るのは、男の子を産まれること。喉を潰して助けを呼べないようにした後、子宮に焼け爛れるようなものを。もっと酷いこともされたのかもしれん。人間のすることじゃない」
う”。思わず胃の中のものが逆流。窓まで走って外に吐いた。
翠蘭、翠蘭、なんて酷い目に。喉や背中にある虫が蠢くような傷痕だけでもどれだけ辛かっただろうって思うのに。そんなことまで。ぅ。涙と鼻水が出てきた。
燈実様が窓にもたれかかっている私の横に立つ。
「大丈夫か? 香香」
「なんでだよ。翠蘭が何したってゆーんだよ。綺麗に生まれただけじゃん」
「だな」
「おかしいだろ、後宮。皇帝も。下女にまで手ぇ出そうとするなんて。国の1番偉い人なんだろ? 上の上の上なんだろ? 妃の子供が皇帝になるんだろ? 上の上の上のかーちゃんは、下の下の下が思いつきもしないことやってんのかよぉぉぉ」
「オレもそう思う。酷い」
燈実様は私の背中をさすった。
李氏様は追い討ちかける。
「翠蘭を助けた宦官は耳や鼻を削がれ、指を1本ずつ切り落とされ、それから……」
げぇぇぇぇ
静かな雪景色に再び私の嘔吐音が響いた。
「李氏様、もうそれ以上はやめて下さい。オレも聞きたくありません」
「そうだな。後宮とはそーゆーところだ。この世で最も華やかな場所。何も知らなければそれだけで終わる。だが、最深部に関わると、」
タンッ
李氏様は自分の首のところで手を水平にして舌を鳴らす。
「、、、これより酷いことが待ち受けている。後宮の男子は短命と言われる。殺されるからだ」
最深部。それは、世継ぎを産み、育てる戦場。エグい。
「ちょっと離脱します」
器に水を入れ、庭に出た。吐いた後の口の中が気持ち悪い。口を拭った手にも吐瀉物の臭いがついている。口を濯ぎ、雪で手をごしごしと拭いた。
私はさ、口濯いで、手ぇ拭けば終わる。でも、翠蘭はきっと一生忘れられない。翠蘭が元カレを忘れられないのは、記憶と体に刻まれた拷問のせい? 喉、背中、子宮。だめだ。また涙が出てきた。
「おーい、香香」
燈実様が雪を踏み分け、迎えに来てくれた。
「燈実様も翠蘭のこと好きだったもんね。悔しいよね」
「いや、もぅ、悔しいってより、血の気引いた。で、思った。オレには手に負えないって。オレなんかぬくぬく育ったぼんぼんで、ぜんぜんガキ。翠蘭のこと、綺麗な人って憧れたけどさ。オレ、あの人の人生背負う器ないわ」
部屋に戻ると、李氏様は私に宣言した。
「私は翠蘭と添い遂げる」
「……」
ねぇ翠蘭。今は幸せだよね? 死んだ元カレを忘れられなくても、こんなにも愛されて。女は、自分が好きな人よりも、自分を好きな人と一緒になった方が幸せって聞いたよ。
翠蘭はひっそりと生きている。屋敷の者以外の誰にも会わず、どこへも行かず。李氏様に守られて。
静かに穏やかに。
いつも微笑みを湛えて。
ねぇ翠蘭。今は幸せでしょ?




