宦官は0カウント
「じゃ、李氏様と燈実様は異能ですか?」
密かに受け継ぐって話からすると、今はちょうど李氏様から燈実様に受け継いでるとこってことになる。そういえば、燈実様の姓も「李」だったような。李燈実。あれ? どんな関係? 血を受け継ぐなら親子。とすると、燈実様は李氏様が8歳くらいのときの子。んなバカな。
「私が異能だ。燈実は違う」
と李氏様。意義あり。
「極秘なんですよね?」
異能じゃない燈実様が知っているなら、ぜんぜん極秘じゃないじゃん。
すると、燈実様が答えた。
「あ、オレ、曽祖父に言われた。曽祖父は人を選ぶ異能でさ。李氏様が引き継ぐとき、サポートするように呼ばれたんだ。李氏様の兄がオレの父」
「特例なんですね」
「そ。異能による言葉は導きなんだ」
「導き」
その言葉は神秘的で運命的に響いた。
幾何学模様の飾り窓から降る太陽の光が昼間からの酒を彩る。火炕の上は天国のように暖かく、摩訶不思議な話が夢のように浮遊する。
語り手は再び李氏様に戻った。
「私は『最も下位の女の声が国中に響くとき、この国は新しく生まれ変わる』という500年前からの予言と、何十年か前に内乱が各地で起こったときの『最も下位の者に人々の憎悪、悪意、侮蔑を向けさせよ』という胸糞なアドバイスを引き継いだ。同時に燈実の力を借りるってのと」
それを聞いて納得。「最も下位の女の声」。囚人を下の下の下にしたこと、女だったこと、喉を潰さなかったこと。李氏様は500年前の予言を妨げないようにしている。それどころか、実現させようとしている。
「じゃ、李氏様はどんな異能なんですか?」
「前にも話したが。男の経験人数が分かる」
あまりのしょうもなさに、私は壊れた顔で固まった。
へー。人を惑わす能力じゃないんだー。
「ホントに分かるんっすか?!」
「言っただろ。女の腰の辺りや、ときどき男の尻にアラビア数字が見えると」
「ウケるし。あはははは」
指差して笑ったら、李氏様に人差し指をぺしっと叩かれた。
そして燈実様に嗜められる。
「香香。どんな異能も、これまで李の一族を守ったし、栄えさせたんだ。運命的な能力なんだよ」
「ははは……。はい。笑ってすいません」
くそっ。それで処女ってバレてたのか。
え、ってことは、翠蘭に元カレがいることも分かってるってこと? 宦官の場合ってどーなるんだろ。
「オレはさ、気に入った子がいたら、李氏様に見てもらってる」
と燈実様がトンデモ発言。そーゆー男だったのかよ。そんなことで女をジャッジすんじゃねーよ。見損なった。
「燈実様は0じゃないと許せないんですか?」
「年齢にもよる」
まさか李氏様、燈実様に翠蘭を諦めさせるため、ウソをついたとか? 例えば10人とか言っちゃったりしたら燈実様の貞操観念ではOUT。ちらっと李氏様に視線を移せば、ささっと私の視線を避ける。こぉんのヘタレ男、まさか翠蘭のことをビッチに仕立て上げてないか?
「燈実様、例えば23歳だったら?」
わざと翠蘭の歳を言った。ついきゅー。
「0。好きな子とは結婚したいから」
「うっわー。自信ないんだ?」
思わず下品になってしまった。
「香香。自信なんかあるわけねーじゃん。手本も基準もないのにさ。こっちは一方的に心ん中で比べられるだけ。結婚したら毎晩比べられる。そんなん、想像しただけで自尊心ボロボロ。オレのオレはデリケートなの」
え、毎晩? 毎晩なの? オレのオレ? 燈実様まで下品になっちゃってるじゃん。
「香香。ちょっと」
李氏様が私を呼んで小声で耳うち。
「翠蘭のことなら、私は今見える数字を正直に言った。『1』と」
ごくっ
思わず唾を飲み込んだ。宦官との関係はカウントされていない。どうやら実物しか認識しないらしい。




