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李一族異能者秘伝

 光の届かない洞窟。蝋燭(ろうそく)のちろちろとした灯りの中で、私の話はまだ続く。



「なるほど。名前もないのによく調べられたな、燈実(とうみ)



 私には名前がなかった。李氏様が香香(シャンシャン)という名前をくれた。



(さら)ってきた場所で16歳くらい女のゴロツキなんて、香香だけでしたから」


「そうか。そうだろうな。普通は暮らしていけない」



 もう我慢できない。



「人のこと調べやがって」



 2人の前に仁王立ちすると、蝋燭で作れられた大きな影が巨人のように岩肌に映る。



「「香香!」」



 2人共、目を見開いて口を丸く開けた。



「香香、仕事は? どうやってここへ」



 燈実様が尋ねる。



「たぶん、乗る馬車間違えました」


「そうか。そうかそうか。追ってきたんじゃないのか」



 言いながら、李氏(りし)様は体で何かを隠そうとする。

 近づいていって、李氏様の背中側をひょいっと覗いた。



「それ、何ですか?」


「李氏様……」



 燈実様は観念したように呟いた。



「そうだな。もう話してしまおう。()()としか思えん」



 李氏様は蝋燭の灯で後ろにあった私の腰くらいまでの大きさの石を照らした。何の変哲もない石。のっぺりとしている。ただ、洞窟の岩肌とは違う色で、明らかに後からその場所へ移されたと分かる。その石に、李氏様は持っていた竹筒の水をかけた。すると、文字が浮かび上がった。浮かび上がった文字は、2回息をするうちに消えてしまった。


『最も下位の女の声が国中に響くとき、この国は新しく生まれ変わる』


 確かにそう書かれていた。日付は500年前の春。


 予言?



「これは?」


「李の一族に伝わるもの」



 寒いので場所を変えることになった。

 火鉢のあった部屋に移った。あったかーい。体溶けそう。


 ちまきや月餅、干物、酒が用意された。普段は下女にやらせていることをする李氏様と燈実様の姿に驚く。職場は殆ど男なので、上司や客人をもてなすときは普通にこういったことを男がするらしい。

 それらは部屋の一角にある少し高くなった場所に用意された。



「座ってみ」



 と燈実様。座ってびっくり。



「うっわぁ。ぬくぬく」


火炕(かこう)だよ。知らない?」


「初めて」


「その下で火起こしてるからあったかいんだよ」



 床の下を見せてくれた。おおーっ。



 一緒に来た他の者達は、温泉宿に泊まる。ここには帰るときまで誰も来ない。3人だけ。

 腹ごしらえをしながら、差しつ差されつ、李一族の不思議な話が始まった。



「李の一族は豪農で、銅山で大きくなった。さっきの洞窟は、銅山の跡。栄えてきたのは、不思議な力があったからだ」


「不思議な力?」



 李氏様の言葉こそが不思議で思わずリピート。



「その力は、耐えることなく現れる。ぽつりぽつりと不規則に。長男に必ず現れるわけでもなく、隔世のこともある。必ず李の一族の中で受け継がれる。1番多いのが、災害の予知。避けることはできない。でも、備えることができる。銅で財を成したのは、鉱脈を見つける異能の者が現れたからだ」


「その中の1つが、さっきの予言ですか?」



 私の言葉に、燈実様が「話の先回りダメダメ」と笑う。

 李氏様はうんうんと頷いた後、話を続ける。



「異能には、様々な能力がある。人を選ぶ能力、善悪を見抜く能力、目立たない能力、馬を集める能力、様々。それら、異能は、李一族を繁栄に導いてきた。香香、信じられるか?」


「信じる信じる信じます。さっき、石に字が出て消えたもん」



 私は力一杯ぶんぶんと頭を縦に振る。

 李氏様は盃を口に近づけながら、ふっと笑った。酒の威力も合わさって、李氏様が妖艶に見える。もしも李氏様が異能だとすると、人を惑わす能力かも。



「異能の血が運命のように受け継がれていることは極秘。親兄弟ですら、異能者以外は知らない。異能を持つ者は次の異能を持つものに密かに歴史を受け継いでいる。さっきの石はその1つだ」


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