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過去の小遣い稼ぎ

「すいませーん」



 荷馬車の上で声を出しても誰もいない。場所は山の中の古い屋敷の前。このままじゃ起きていても凍死する。



「誰かいますかー」



 門から入り、屋敷の扉を叩いた。応答なし。中庭の窓から覗いてみた。

 おっ。火鉢。部屋に入りたい。あっ。ちまきあるじゃん。食べたい。



「すいませーん」



 屋根から雪がとさっと落ちる音がしただけ。

 太陽の位置からすると、1日で1番暖かい時間。ちょうど雪が止み、日が差してきた。それでも、わらじを履いただけの足の指は冷たくて痛いほど。手の指に息をはーっと吹きかけ、一時だけ温まる。


 雪の眩しさに目を細めたとき、足跡を見つけた。

 雪の上にある2人分のそれは、庭から建物の後ろに回っている。人いるじゃん。行ってみよ。


 足跡は屋敷のすぐ裏手にある山に続く。そこには馬車が通れるほど大きな洞窟の入り口があった。ぽっかりと空いた穴。壁のところどころに蝋燭が灯され、神秘的な光が私を(いざな)う。厳かな空間。洞窟内の道には分岐があり、メイン以外は幅が狭い。進んでいくと、そのメインも徐々に狭くなっていった。


 !

 声が聞こえる。 



「もしかすると、香香(シャンシャン)かもしれん」



 突然の自分の名前に固まってしまった。

 声の主は李氏(りし)様。


 聞き耳。



「そうですね。何かやってくれそうですね」



 もう1人は燈実(とうみ)様。



「やってくれそうというか、やらかしそうというか。で、調べて、どうだった?」



 ん? やらかす?


 李氏様と燈実様は、月に1度の頻度で李氏様一族の故郷に帰る。今日から3日間はその予定だった。ってことは。私は馬車を間違えて、李氏様一族の故郷に来てしまった。


 岩陰で2人の会話を聞いた。



「調べてるの知ってたんですね?」


「こそこそと」


「どうやって生きてたのか、不思議だったんです。李氏様は、香香のこと、生娘っておっしゃったから。16歳の娘が体を売る以外にどうやって生計を立てていたのか」



 なんで? 前も思った。なんで処女ってバレてる? どゆこと。



「そうだな。住む場所のない娘は、体を売るしかない。だから大抵は街に出て娼館で働く」


「国境を行き来する旅人に道案内をして稼いでいました」


「なるほど」


「いろんな国の旅人相手に。数種類の言葉を話すそうです。特に西の国の言葉はペラペラ。表向きは道案内ですが、両替をしていました」


「通貨の?」


「ご存知の通り、西の国の通貨は我が国とは異なります。両替のマージンで稼いでいました。旅人の半分は、もう使わない小銭を恵んじゃうらしくて」


「面白い。あの、すっげーアホな喋り方に騙されるんだな」


「ははは。確かにそうですね」



 むっ。



「しかし、両替をするとなると金が必要だ。持っていたら危険だろ」


「向こうの商人とこっちの商人をバックにつけて、用心棒を雇ってたようです。両替の金はその日のうちに商人に預け、襲われないようにしていました。他にも」


「他にも?」


「農民に悪知恵を」


「どんな?」


「教えてもらえませんでした。農民の口が固くて。ただ、香香のおかげで、あの辺りの農民が飢えていないことは確かです」


「ほう」


「香香は、報酬として、農家から米や野菜を分けてもらってます。他にも」


「ん?」


「潰れそうな飯屋を流行らせました。それは、ま、娼婦を出入りさせてって方法ですが。あと」


「まだあるのか」


「農作物の種をただ同然で仕入れて、別の場所で高く売ってたようです」


「おいおいおい」


「両替の金を預かっていた商人が言っていたそうです。一瞬で計算をすると。帳簿の穴を見つけたり、帳簿係の横領を見つけたりしたこともあるようです。調べに行った者が『雇えばよかったのに』と言ったら、『店が乗っ取られる』と返ってきたそうです。もう1人の商人も『信用できない』と」



 あのオヤジら、そんなこと思ってたのかよ。クソじじぃ。


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