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起き抜けの可愛い

 後宮に奈落の闇があるように、官僚の世界も死と近い。権力争いは熾烈。粛清の嵐が来たり、間者がいたり。利益相反には細心の注意が必要。


 李氏(りし)様の仕事の手伝いをしたとき、官庁は穏やかで上品な人ばっかだったのに。山賊や怪しい船に乗っていた男達って、強面だけど仲間を殺すことはなかったなー。


 和やかな場にふさわしくない話題はこそこそと。私は燈実(とうみ)ママにこっそり聞いた。



「元経済の副大臣の周りでは、そんなに何人も亡くなったのですか?」


「政治の世界ではよくあることよ」



 燈実ママは、内閣府の官僚を代々勤める家の生まれだった。

 やっぱお嬢様。そして、官僚の部署は世襲制が蔓延っている模様。


 燈実ママの両親は、年頃の娘を、経済の大臣の家か法の大臣の家のどちらかに嫁がせようとしていた。燈実パパは当時、良家の子女達に「顔だけ男」と言われていた。



「酷いでしょ? 科挙に受かりそうかどうかってことしか見てないんだから。その価値観ってよくないと思いません?」



 あのぉ、私に同意を求められても。



「お母様は、お父様のどこが良かったの?」


「顔」



 いつの間にか話を聞いていた皆さん。娘に訊かれて即答する燈実ママ。



「「「顔かよ」」」


「結婚したら、ずっとその顔を見続けるのよ。大事よ。朝起きたときから幸せな方がいいじゃない。寝起きの冴えない男なんて、1日の始まりがサイアク。好きな外見の男は、髪が跳ねててもぼーっとしていても可愛いって思えるもの」


「分かります!」



 思わず燈実ママの手を握っちゃった。



「お母様ったら、さらっと生々しい話を……」



 おませな燈実妹は頬を染める。


 本人は法の大臣の家に嫁ぎたがっているけれど、肝心の男は科挙に絶対に受からない成績。これでは娘が嫁いだところで、法の大臣の家は、その代で官僚の仕事を失ってしまう可能性大。


 一方、経済の大臣の家の孫は超優秀。



「でもね、フツーだったの。夫って、身内の贔屓目もあるけれど、派手イケメンだから」



 おっしゃる通りでございます。


 貴族は結婚相手を親が決める。ってことで、経済の大臣の家に嫁ぐ準備が着々と進んでいた。

 が、経済の大臣の息子=嫁ぎ先の男の父親が突然死亡。

 官僚になるべく勉学に励んでいた燈実ママのフィアンセは、父親の死によって考えを変え、出家した。


 燈実ママは燈実パパと結婚。結果オーライ。


 後に経済部門の中で派閥争いが起こり、大臣が交代した。そのとき、なぜか、全く役職に就いていなかった男が経済の副大臣に就任。それが、金満寺の住職。金満寺の住職は、地方役人の息子。非常に優秀で野心家。副大臣になると同時に貴族になった。



「貴族じゃなくても官僚になれるのですか?」


「官僚は科挙に合格すればなれっし。ほとんど貴族なのは、科挙の勉強に金がかかるからだよ。学校、書物、家庭教師」


「あの住職は、勉強嫌いの貴族の息子の代わりに学校へ通っていたという話だ。小遣いを稼ぎながら学校へ通って、官僚になるとは。隠蔽されているが、初年度にその息子と偽って替え玉受験をしている。最終面接を息子の方が受けて、不合格。2年目には住職が自分の名で受験して合格した」



 意外に苦労人だったんだね。金に執着するのも納得。



「お母様、まだ1人しか死んでいません」



 おっと、冷静な燈実弟。



「そのとき、北部の事情に通じていただけで、何十人も粛清されたのです。亡くなられた皇帝は、北部を治める皇帝の弟に命を狙われていたから」


「怖い。何十人もですか!?」



 燈実妹が自分の肩を抱いてぶるぶると震える。


 前に聞いた粛清の話って、金満寺の住職が絡んでたのね。相当の働きしたんだろーなー。世襲制なのに貴族じゃなかった人間が副大臣になるなんて。おまけに貴族になっちゃったし。


 つまり、北部の皇帝の弟に皇帝が命を狙われた件で、大規模な粛清があって、経済の大臣が交代した。燈実ママが結婚したころの20年以上前の話。



 金満寺の住職は、庶民の星だったのかぁ。


 元々恵まれている人よりも成り上がりに魅力を感じてしまうのは庶民だからしょーがない。んーっと、私って生まれは結構、由緒あったんだっけ。関係ないよね。物心ついたときから、(ろく)に食べられないくらいの暮らしだったもん。





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