しわしわ異能ジジ
軍部へ行くと、燈実様はもう帰った後だった。李氏様も。
馬、返さなきゃ。いくら馬がお利口でも、放すってのはダメだよね。このまま乗ってたら、燈実様ん家に着くかな。
着いたし。
旧家って感じ。でかっ。
馬の出入り口は表玄関とは別らしく、馬は塀に沿ってかっぽかっぽ歩いていく。そして、表玄関よりは小さい門が現れた。これが裏口? 十分大きいっす。
馬は閉まっている扉に頭をぶつけて音を出す。
「大丈夫だよ、私が叩くから」
急いで馬から降りて門扉を叩く。
しばらくすると中から扉が開けられた。
「はいはーい。おかえりー」
使用人まで燈実様っぽい明るさ。
馬のお礼を述べて帰ろうとすると、馬車で送ると言われた。とんでもございません。
「送らせてください。燈実様の知り合いの若い女性を、暗くなり始めるころ、お一人で歩いて帰らせることなどできません。私が暇を出されてしまいます」
燈実様ってどんな暴君だよ。
「いえ、そーゆー知り合いではありませんので、燈実様は全く気になさいませんから」
自分で言いながら「そーゆー」って、どーゆー? と自身に突っ込む。
「燈実様ではなく、他の家族や使用人達がうるさいのですよ」
使用人は苦笑いする。
アイドル扱いなわけね。
そんなやりとりをしていると、めちゃくちゃ綺麗な女性が来た。なんか、いい匂いするし。
「まあ♪ あなたが香香、じゃなくて麗ちゃんね。ちょうどよかったわ。来て来て」
この軽快なノリ。燈実様に似てる。顔も似てる。きっと燈実ママ。私を香香と知ってるって、どゆこと? 初対面なのに。燈実様が言ったのかな。「馬届けに来るかも」って。私のこと、香香ってご存知みたい。
第七皇女の身代わりをすることになったのは、燈実様が燈実パパに、私が西の国の言葉を話せるってポロっと喋ったからだった。燈実様って、基本、隠し事できないタイプなんだね。
案内された部屋には、燈実様ともう1人。
「お疲れ様です。あら? 李氏様」
「実家だから、ちょくちょく来てる」
そっか実家。
私が部屋に入ってきたというのに、燈実様は立ち上がる。
「じゃ、李氏様、行きましょう」
「そうだな。麗も一緒に」
と、2人は部屋を出て行く。一緒にと言われたから後に続いた。
どこ行くんだろ。回廊から見える庭には池。東屋と橋まである。広っ。美しい景色を眺めながら辿り着いたのは、趣のある内装の部屋。そこではしわしわのちんまりした塊が書物を読んでいた。
「よぅかぃっ」「ゲホッゲホッゲホ」
思わず「妖怪」と口に出してしまった私の言葉に、燈実様は咳を被せる。
「おお祖父様」と燈実様が、「お祖父様」と李氏様が呼んだ。
「この子は香香です」
李氏様が私を紹介すると、「おお、あの」と握手を求められた。腕も手もしわっしわ。
「香香と申します。今は麗と名乗っております」
「私は燈実の曽祖父じゃ。異能を継ぐ者と言った方が分かるかな」
「ええ、生きてたん!?」「ゲホッゲホッゲホ」
燈実様が全力で咳をする。でもさ、聞こえちゃったよね。
「ひょっひょっひょ。生きとる生きとる」
異能ジジは息が歯の間から空気が漏れて独特の笑い声。
「こらこら。勝手に殺すな」
と李氏様。
そーいえば。銅山跡の屋敷の書庫に、人を選ぶ異能の記録がなかった。まだ生きてるから本人んとこにあるわけね。
「た、大変失礼致しました。現在の異能が李氏様と聞いておりましたので、勘違いをしておりましたっ」
平謝り。
「祖父は仕事を父に、異能を私に引き継いで悠々自適に暮らしている」
へー。生きてたんだー。何歳なんだろ。
「自分でも予想外の長生きだ。そのおかげで、世が変わるのを見ることができる。この歳になって、こんなにワクワクするとは思っていなかったぞ。ひょっひょっひょ」




