行動に移す優しさ
軍上層部の決断を聞いたとき、雲嵐の顔が曇ったのを仲間達は感じとった。誰にも告げず、雲嵐はこっそり寺へ向かおうとした。気づくと友達がついて来ていた。
一刻も早く寺に着こうと急ぐ雲嵐を冷静にしたのは友達だった。
『オレらが先に飢えるわけにいかねーじゃん』
米、鍋、飼葉を用意した。そして、寺の付近に住む人々に様子を聞いた。
寺から最も近い10軒ほどは、北西部軍の強奪に遭い、現在空家。雲嵐達は、そのうちの1軒に隠れ潜んで寺へ通った。
「肉が焼ける匂いがしてさ」
「寺から?」
「うん。馬が、食べられてた」
「ひっ」
戦ってグロっ。央の国で、馬は食べ物じゃない。
「酷いけど、あいつらは肉を食えるからいい。でも、寺の人はそんなんムリ」
僧は、肉を食べられない。
雲嵐達は、僧達がどこに捕えられているのかを探った。意外にも、縛られたり閉じ込められたりはしておらず、本堂から離れた普段寝起きをしている僧房にいた。僧房は寺の1番奥。そこには塀がなく、見張りもいない。
僧達は、逃げられないわけじゃなかった。
「大きい寺なの?」
「ふつー。敷地は広い。住職の他に僧が3人」
「なんで逃げなかったんだろ」
「住職は、寺が戦場になるのだけは防ぎたかったんだって。他は身寄りがなかったり、寺が好きだったり、住職を慕ってたりで」
雲嵐達は米を炊いて、こっそり僧房に届けた。危険だから来るなと言われても続けた。その間に僧達を説き伏せ、身を寄せる先を探した。
住職は知り合いの寺に文を書き、若い僧2人は先に寺を出た。
住職を慕っている中年の僧は前科者だった。
「ええっ」
「青の刺青あった。だから、他んとこで暮らすのは難しいんだと思う」
青の刺青は、罪を犯した者につけられる印。背中に入れられる。隠して働くことはできても、集団生活ではバレてしまう。
住職と中年の僧は、村の外れにあった空き家に身を寄せることになった。逃げるとき、老齢の住職はもう体力が残っておらず、雲嵐が背負って運んだ。
村人は親切で、空き家には食べ物や布団が届いていた。
「私、雲嵐を好きになってよかった」
可哀想とか心配って優しさだけじゃなくて、行動しちゃう人。
「ん?」
「心配は尽きないかもだけど」
雲嵐達は、寺が戦場にならないよう尽力すると約束した。
「さっきの友達、軍部にそのこと言いに行った」
「軍の命令に逆らったの、怒られないかな」
「北西部軍には食べ物渡してねーし」
「そっか」
雲嵐は、戻ってくるときに北西部軍の馬を逃した。
「あいつら、馬の飼葉まで食っててさ。可哀想に馬が食べるもんなくなるじゃん。馬、放しといた。その辺の草食べられるよーに」
「逃げよーよ。食べられちゃうよ」
お馬さん。
「仲間が殺されたのは衝撃だったみたいで。血の痕があった近くに繋がれてた馬、山ん中まで逃げてった」
「じゃ、北西部軍って馬までなくしちゃったんだ?」
「どーかなー。馬って、戻るからなー」
北西部軍は金を持っているにも関わらず、食べ物を調達できなかった。強奪以外で手に入れる方法がなかった。民衆が食べ物を売らなかったから。
血の気の多い武将が強奪を繰り返そうとすると、皇帝の弟はそれを止めた。
『ここは我が国、我が地となる場所。ここに住む人々も、もうすぐ我が民となる。傷つけてはならん』
かっこよく決めたつもりかもしんない。でも、効果なし。
「香香」
「ん?」
「疲れた。はーーー」
雲嵐がため息を吐きながらこっちを見る。下がり眉、子犬目。ちょっとだけ下唇を噛んで。
きゅぅぅぅぅん
心臓が捩れてうっかり手綱を離しちゃった。おっと。あっぶな。落馬するじゃん。
「雲嵐、どした?」
「早く一緒に暮らしたい」
「私も」
並んで馬に揺られる。
「遠い」
ホントだ。遠いね。手が届かない。
ーーーガオ、ありがとーーー




