あそこにあるのに
雲嵐って、まつ毛長っ。この辺の人にしては鼻が高くて、鼻の穴が縦長。
銃を布で見えないようにして体の向こう、壁側に置いて寝てる。銃の襷に腕を通したまま。
ずーっとここで、雲嵐の寝顔見てたい。あ、耳クソ。明るいから奥の方まで見える♪ 今度ほじほじしたいなー。なんか、傍にいるだけでシアワセ。一緒に住んだら、これが毎日。私、他のことできるかな。一日中、雲嵐見てるだけで終わりそ。
猛禽類女子はまだまだ来ない。
帰ろ。
1日の終わりは、雲嵐を思い出す。憔悴した顔、汗の匂い、でっかい手。
悪戯っぽく笑う顔、最高に好き。きゅんってなる。
最近、そんな顔見てない。深刻なことが起こる世だから。私、いっぱい心配させちゃったしね。戦は嫌。早く平和な世が来るといいな。
戦では、北西部からの軍に勝利した。
民衆の推測通り、敵は山越えルートを選んだ。溜め池のゲートはオープン。山から降りてきた皇帝の弟&武将らは目の前の地図にない川に立ち往生。後退した。
そこから東方にある街道にルート変更するのは難しい。街道までに本物の川が2本あるから。
結局、逃げた先は前日と同じ寺。兵糧がないのにそこまで辿り着くなんて、さすがの執念。兵糧を歩兵に持って行かれたから、そこまで戻らないと食べ物にありつけなかったとも言える。
そこからが問題。北西部軍は寺の食べ物を食い尽くした。当たり前。100人もいたらあっという間。更に近隣の農民に米を差し出すよう要求。早い話が脅して強奪。農民達は逃げた。
寺の僧らは軟禁状態で、北西部軍と共に飢えに苦しんでいるらしい。
僧救出の軍を出すと、都の守りが手薄になる。また、対戦すると被害が出る。都にいる軍の上層部は、北西部軍が飢えるのを待つという選択をした。相手、強強軍団だしね。
寺があるのはは大きな街の西。
大きな街の北には街道の分岐がある。クロスロード。北へ行けば北部、南は都、西は遥か西の国境越えても続く道、東はジモティ用。
「北部から、寺の北西部軍への兵糧と兵が出発した」と報告が入った。数は不明。
北西部の後発隊もあるらしい。その数は800。
戦が長引くことになる。
「費用が足りない」
屋敷の別棟。李氏様は険しい顔をした。隣には翠蘭が腰掛け、大きな団扇で優雅に李氏様に風を送る。
「戦、続きそうですもんね」
私の言葉に、翠蘭が頷く。
「牢の捕虜の治療費、食費、戦の弾丸、火薬、兵糧、給金。兄が参っている」
「金満寺にいっぱいあるじゃないですか」
「証拠として押収できるのは、せいぜい保管されている芸術品。金じゃない。それだって不正入手を暴かなければ、こちらのものとして使えない」
「だったら、帳簿にあるお金渡した人を調べれば、なんか出てきますよ」
「表立った捜査ができん。あの帳簿に名前がある官僚がちらほらいる。だから、あの帳簿を証拠品として公にできないのだ」
そっか。そうすると、記載された金額を取り立てることができない=戦費を捻出できない。
「帳簿、どこにあるんですか? 危険です」
「今は私が持ち歩いている。名前を見てマズいと思った」
「金満寺の住職を取り調べるのは?」
「できるわけないだろう。貴族の中には、北部や北西部の皇帝一族と手を組んだ方がいいと考える者もいる。そーゆー面々と李家との対立が濃くなって、経済部門から軍への当たりが厳しくなってきた」
あらら。ますます戦費の調達が難いじゃん。
「内閣府長は『民こそ財産』って言ったんですよね? 内閣府長が自分とこの蔵から米、出してくれればいーのに。火薬も持ってるって話だし」
華港の蔵には阿片まであるって噂。
「そんなこと、誰が頼める? 皇帝でさえ、何も言えなかった人だぞ」
「皇帝だったから言えなかったんじゃないですか?」
側近中の側近。いつでも皇帝の命を狙える存在だった。
思い出すのは凡庸な背中。見張りの兵士や近衛兵に声をかけていた様子。皇帝、か。




