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そういえば金満寺


 話しながら、馬を休ませていると、燈実(とうみ)様が馬に乗って現れた。 



雲嵐(うんらん)、まじサンキュー。これ」



 雲嵐に竹の皮に包んだご飯を2つ差し出し、官庁の中で休むように言う。



「ありがとうございます。では、ご武運を」



 雲嵐は、言葉こそシャキッとしているものの、相当疲れているのか、よろよろと軍の官庁の方へ歩いて行った。


 都からの軍は、北西部軍を2手に分かれて迎え撃つのだそう。1つは山越えの畦道。もう1つは街道。



「兵糧や火薬の在庫は大丈夫なのですか?」


「ある。今ンとこ。長期戦んなったらまずいかも。あ、李氏(りし)様が忙しいらしい。手伝ってやって」



 そーだ。李氏様の様子見に来たんだった。翠蘭、李氏様は大丈夫だよ。



「私が?」


(リー)の手ぇ借りたがってた」


「女なのにいいのですか?」


「女官だって女じゃん。ぜんぜんOK。じゃ、オレ、行くわ」


「ご武運を」




 法部門の官庁は門の辺りの火災が1番酷かった。炭になった看板が地面に落ちている。メインの建物はそれほど被害はない。

 裏に回って、外から丸見えの1階の牢の辺りに行ってみた。あらら。思ったより牢は被害を受けてる。檻の格子が黒くなってるし。ちょっとぉ、牢にいた私を解放しようとしてるのに、ここに火ぃ点けたらダメじゃん。焼けていない檻には外国人捕虜が大勢いる。金色や茶色の髪、真っ白の肌、茶色や青の瞳。顔立ちが(おう)の国の人と全く違う。


 私、女って以前に、脱獄した人間なんだけど。法部門の仕事を手伝っていーんだろーか。

 ちょっとドキドキしながら、正面玄関から建物へ足を踏み入れる。


 人に尋ねながら目的の場所へ行く。と、紙に埋もれた李氏様が、げっそりと、汚らしく髭をハンパに生やしてた。肌が白くてポツポツと黒い髭が目立つ。あらら、イケメン台無し。



「手伝いに来ました。でも、翠蘭の用事もあるんです」



李氏様の様子を伝えなければならない。ってことで一旦帰ろうとすると引き止められた。



「今帰る者に(ことづ)けるから、頼む、手を貸してくれ」


「はい。他の人は……」



 部屋の広さと机の数の割に人が少な過ぎ。



「まだ就業時刻前。昨日帰らなかった者が残っているだけだ」


「じゃ、これから人が来るんですね?」


「期待できない」


「文官は戦に行かないんですよね?」


「我々は皇帝に仕えていた。皇帝がいなくなった今、仕事をする必要はない。仕事をしても給金が出る補償がない。それにな、暴動が起こったなんて危険な場所、誰も来たくないだろう」



そっか。発端は香香(シャンシャン)解放の暴動だっけ。手伝いますとも。



「なんでもお申し付けください」



 李氏様は翠蘭への託けをすると、どっさり仕事をくれた。仕分け、書き写し、整理、片付け。なんか新鮮。

 鼻息荒い感じで頑張る。途中で書き写し作業にNGを出された。薄々勘づいてはいたんだけどさ、私って、字が下手っぴ。字を覚えて間もないからしょうがないって思ってた。でも。私より後に字を覚えた翠蘭の字、綺麗だったんだよね。


 李氏様の仕事予定は、最低限の必要な分だけなのだそう。その中に、自分を含め、罪人を火事から守るために避難させた文書があって、どきり。世が世なら、反乱分子の煽動者。&、世がどうであれ、普遍的罪な殺人の容疑者3人。逃したことは、まだ誰にも喋ってない。



「麗、これ。金満寺の妾んとこにあった」



 休憩の時に、金満寺の住職の帳簿を見た。


 几帳面な性格らしく、事細かに記載があった。牢に入れられたり、皇帝専用の抜け穴で逃げたりで、金満寺に忍び込んだのなんて遥か昔の気がする。


 金満寺の隠し部屋の一角に箱が積み上げてあった。どれも同じ大きさの、銀が10入る箱。数がやばかった。鮮明な記憶は、(きん)。蝋燭の頼りない灯りの中で、鮮烈な光を放っていた。


 あれ、変な形してたんだよね。ちっちゃい草鞋(わらじ)みたいな。


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