畦道ゲートウエイ
馬が止まった。
兵士と雲嵐は馬から降り、燈実様に頭を下げる。
「この者が、敵を見たと申します」
「報告しますっ。北西部からの敵が昨晩、西部、北部、南部との分岐点近くの寺で宿泊していました。騎兵と歩兵が仲間割れをし、騎兵だけがこちらに向かってきます」
「数は」
「100ほどかと思われます」
「よくやった、雲嵐」
「地図はありますか」
「あ、ちょっと待って」
燈実様が懐から地図を出して広げる。
「寺はここです。なので、街道もありますが、寺から地元民が使う、山を越えて都へ来るルートもあります」
燈実様は地図を持ち、雲嵐が辿る指先に視線をロックオン。
そこへ野次馬がわらわらやって来た。
「山超えて田んぼの中の道使うのか?」
「あんなん、ほぼ畦道やぞ」
「ワシらの田んぼを馬で踏み荒らすなんて許さんぞ!」
「いえ、まだ、どこを通るかは分かりません。可能性だけです」
雲嵐の言葉は全く耳に入らない様子のみなさん。
「あの山越え道だな。数が少なかったら奇襲をかけてくるに決まっとる。街道は道がまーっすぐでよう見える。田んぼの山越え道は都の方に山があるで、こっそり進みたかったらこっちやろ」
「お、オレらの田んぼら辺や。じゃ、溜池のゲート全開にして、山から出てきた敵の前の川、水嵩増やしたる」
「増えても腰くらいやろ。あの幅やったら馬が飛び越えるかもしれんしな」
そこで雲嵐。
「敵の馬は小さいです。北の遊牧民の馬でした」
北の遊牧民の馬は少食で足腰丈夫で力持ち。持久力もあって長距離移動にぴったり。難点は小さいこと。大人が乗ると、足が地面に着くかどうかってくらい。小さいから速さは今ひとつ。そして、小さいから深い川を渡れないし、飛び越えるなんてできない。
「よっしゃ、川の水増やすぞ」
「そんなことしたら、お前ん田んぼ、水ついて半分がダメんなる。今年は豊作やのに」
「オレんとこだけや。大丈夫や。いつも川上でええ思いしとっからさ」
「くっ。ええ漢や」
何やら勝手に作戦を立てる野次馬のみなさん。
燈実様が慌てる。
「待て、上官に相談する」
と、誰かが燈実様を一括。
「阿呆。一刻を争うんや。相談の結果なんて待てん。オレらはすぐ溜池のゲート開けに行く。お役人さんは、上官に報告しとけ」
「はい」
どっちが上なんだか。
3人の男が走り始めると、燈実様が「馬を使え。誰か、この者達に馬を!」と兵士を呼ぶ。
「お役人さん、オレら農民は馬なんて乗れん」
「分かった。誰か、この者達を馬で連れていけ」
報告が終わった雲嵐は、地面に腰を下ろしてる。
「雲嵐、お疲れ様」
「ああ、香香。オレより、こいつの方がお疲れ様なんだ」
雲嵐は傍にいる馬の脚を撫でる。「ん!」と立ち上がり、馬に水を飲ませに行く。私も並んで歩く。
「夜通し走ったの?」
「うん。間に合えばいいけど」
「きっと間に合うよ。それに、100くらいの敵なら」
「100って言っても武将クラスだから強いって」
「なんで仲間割れしちゃったんだろ」
「それは、いろいろ表になってなかった軋轢があったんだよ」
昨日、雲嵐は牧場の候補地へ行った。山の麓。草原が広がり、水も豊富。少し行けば街道、そして大きな街。
辺りの話を聞くために、そこにあった寺を訪れた。気さくな僧と話が弾み、雲嵐は寺に泊めてもらえることになった。雲嵐って賢い。僧に聞くっていいよね。今後の助言もしてもらえそう。
すると、軍が押し寄せた。何がなんだか分からないまま、高貴なおじさん達に「若造は外にいるみんなと寝ろ」と追い出されてしまった。
「嫌なおじさんだねー」
「結果、良かったんだけどさ」
寺って万能。教え伝播の場で、僧兵の養成場所で、武器を隠せるし、お宝も隠せちゃう。更には500人でもOKの宿泊所。




