兵どもが夢のあと
どこが戦場になる? 都をぐるりと囲む塀に籠っての戦い? それとも街道で合戦?
被害が最小限になるよう考えるはず。最も避けたいのは田畑。次が民家周辺。戦場は街道かな。道しかないとこ。街と街の間はそんな感じの場所が多い。敵、400〜500を迎え撃つなら、狭い道の両側で待ち伏せしたい。とすると、地図のこの山。確か、道は谷沿い。上に潜んでぇの道へ向かって集中攻撃。
んーっと。なんで迎え撃つ前提で考えちゃったんだろ。
皇帝が殺されたとはいえ、貴族は身分を廃止されるのが嫌なはず。軍のトップら辺は貴族。皇帝の弟側につく可能性もある。
私が考えたって、どうにかなる問題じゃないか。寝よ。
翌朝、翠蘭に起こされた。李氏様が昨晩家を出たまま帰らないと訴える。
心配しすぎ。
「ふぁぁ。軍部行ったんじゃない? それか、燈実様ん家」
軍の偉い人、燈実パパがいるから。
翠蘭は眉をハの字にして泣きそうな顔。
そんなに心配なんだ。
「分かった。軍部、見てくる。まだ戦は始まらないと思うし。燈実様ん家は知らないから、そっちはパス」
ってことで、宮廷前の広場へ。
びっくり。
早朝というのに、戦の準備をした人がいっぱい。鎧を着て隊ごとに固まって、なんか配られた物食べてる。これって、食べ終わったら戦?
「麗、おはよ」
いきなり後ろから声をかけられた。
「っ。燈実様! おはようございます」
さすが武官&貴族のボンボン。一目で位が高いと分かる兜。鎧は高価。意外なのは、鎧にまあまあ使い込んだ形跡があること。戦経験を物語る。
「雲嵐、いないんだけど」
「新居の下見に行きました」
「へー」
「どこが戦場になるんですか?」
「街道に罠仕掛けて待ち伏せ」
「あ、あの。燈実様は貴族じゃないですか」
「うん」
「貴族なのに、皇帝側の人と戦うんですか?」
「いろいろ話し合った結果『民こそ財産』ってことになったわけ。内閣府長の鶴の一声。ま、最大勢力は民だからさ。兵士も9割以上は民じゃん」
「真の理由は数ですか」
「貴族が皇帝側に行くなんて言ったら、皇帝の二の舞。オレらが西の国境から帰ってくるころ、貴族の屋敷が何軒かボヤ騒ぎあったらしーし」
「あ、皇帝は……」
前に燈実様に会ったとき、抜け穴の先に丘があることを告げた。
「崩御されていた。丘の頂上の木で首を吊って。宮廷がよく見える場所だったよ。どんな思いで燃える宮廷をご覧になっただろうと……」
燈実様は小高い丘を見た。
2人の皇子は、腹を斬られて絶命していた。皇子の幼い息子まで喉を斬られていた。周りには殉死した数名の近衛兵。青々と草の生い茂る中に亡骸が転がっていた。
「そうでしたか。政権が交代したとしても、死ぬことなかったのに」
私の言葉に、燈実様は首を横に振った。
「恥を抱えて生きることが許されない。皇帝は」
そんな、ただのプライド如きで。一瞬思ったけれど、生きていたら、自分を責めて狂いそうに辛いだろうなって考えた。
下の下の下でさえ辛かった。多くの者が狂った。上の上の上だったら。
今、丘の頂上には青々とした木々が見えるだけ。
「戦の準備、急で大変だったんじゃないですか? よく人が集まりましたね」
「んー。なんか、広場に人がぞろぞろ集まって来て。マジ謎」
「みんな、皇帝の勢力が攻めてくるって予測してたのかも」
「そこまで考えるっけ? 歴史書や軍記物読み漁った麗だったら分かる。なんで民衆がここまで統制とれてんのか、めっちゃ不思議」
広場がざわつき始めた。ずーっと向こうの広場の端から。ざわめきと共に、隊ごとに並んだ列が崩れていく。人を乗せた2頭の馬が駆けてくる。
え? 雲嵐?
遠くからでも分かる。昨日、手を振ったときの服のまま。1頭には雲嵐。もう1頭には兵士。馬は全速力で駆けてくる。




