曰く付きの地下道
「は? なんで知ってんの?」
「昨夜、翠蘭と一緒に宮廷から脱出したんです」
「翠蘭様と? え? なんで?」
「そーいえば、どーやって馬車出したんだろ」
話をできない翠蘭が、私を助けるために馬車に乗ってきた。馬車を出すには御者が必要。どーやって行き先とか目的を伝えたんだろ。あれ? 私って、李氏様の屋敷では別棟に潜んでたのに、使用人は、馬車の中に誰が乗ってるか訊かれたとき、「香香」って答えてた。ま、いーや。後で翠蘭に聞こ。
「おいおい」
「なんやかんやあって、宮廷から逃げたんです。翠蘭が秘密の抜け穴で連れてってくれて」
「ええっ。翠蘭様が知ってたって?」
「はい」
「ヤッバ。ホントにあったんだ。皇帝の地下道」
「皇帝の!?」
そうじゃないかとは思ってた。皇帝専用の緊急脱出経路。皇帝は私達の前に、あの抜け穴を使って逃げたんだと思う。
「造った人間、全員が殺されたって曰く付きの地下道」
「……」
怖っ。廃墟の前にも女の人4人、斬殺されてたっけ。翠蘭、なんで知ってたんだろ。
「で、逃げたら、あの丘の麓の井戸に着いたんです」
「あんな遠くまで続いてんだ。びっくり」
「そしたらそこに近衛兵がいて、殉死がどーのって言ってたので。翠蘭と一緒に逃げました」
「近衛兵が殉死。
……。
そうか。崩御なされたのか」
燈実様は鎮痛な面持ちで丘を見た。
そして、被っていた役人の帽子を脱いで、胸に手を当てた。
「麗、ありがと、教えてくれて。すぐにご遺体をなんとかしないと」
「あの、雲嵐を探してるんです」
「ああ、あの隊なら、広場んとこの軍の官庁で休んでる」
「無事なんですね? よかった」
「ごめん、そこまでは分かんない。死体にはいなかったから大丈夫だと思う」
死体って簡単に言わないで。戦場って死が近すぎる。
「ありがとうございます。では、これから李氏様を探します。翠蘭に頼まれたので」
そう告げると、
「父が軍部にいるだろーから、李氏様のこと、訊いてみ」
と。
前に燈実パパに会ったとき、私はキラと兄のツアーコンダクターとして男装をしてた。もう私が香香だったって、ご存知なんだろーか。
「軍部、どこにあるんですか?」
「宮廷に入って東側の建物。西側が内閣府と議事堂。あ、宮廷の正面の門の方じゃなくて、外の門から入れると思う」
「行ってみます」
李氏様は近衛兵に連れられてどっか行っちゃったから、たぶん無事だと思うんだよね。それより、放火された皇帝の寝所にいた翠蘭のこと、李氏様はすっごく心配してると思う。
2人で逃げたって、教えてあげなきゃ。
ついでに、李氏様に頼んで、雲嵐が軍の官庁にいるかどうか聞いてもらお。
宮廷の東門は開いていた。見張りはいない。
恐る恐る足を踏み入れ、きょろきょろと辺りを見回す。怒られなさそ。これだけ民衆が出歩いてるんだもん。入っちゃダメなら、門を閉めるよね。
建物の中に入ると、いびきが響いていた。なんだろう。この予感。建物に木霊するような大胆ないびき。この図太い感じは、、、
いびきが聞こえてくる扉をそーっと開けた。
キィィィ
やっぱり。正面の椅子にどベーんと寝そべっているのは、燈実パパだった。うっ。臭いが。男の人の汗臭さに加齢臭が混じっててヤバい。
我慢できず、両開きの扉を全開にして、窓も全てオープン。
燈実パパはよほどお疲れなのか、私に気づきもしない。
「「「おい」」」
3方から人がやって来た。
「ぉはよぅござぃます」
「おはようございますじゃない!」
「閉めろ、扉と窓。うるさくてかなわん」
「せっかく、その部屋から逃げたのに」
「すみませんっ」
大急ぎで扉と窓を閉めた。3人はあくびをしながら戻って行く。
どうしようか。廊下に出て立ち尽くしていると、李氏様が亡霊のように歩いてきた。
「麗……」
服には煤がつき、手は真っ黒。翠蘭を探した?
「李氏様っ。翠蘭は無事です」
「え」
「元気ですよ。今、李氏様の屋敷で寝てます」
「そうなのか?」
「はい」
「ああ。そうか。そうかそうか」
李氏様はヘナヘナとその場に崩れた。




