都にあるのは混沌
一夜明け、寝床の上でぼーっとする。
雲嵐。無事だよね?
外国船からの敵が150人以上って聞いたとき安心した。その規模なら勝てる。
丘の麓の井戸から出たとき、銃撃戦の音は聞こえなかった。あのとき、戦はもう終わってたと思う。
李氏様の書庫にあった歴史の書物では、古い王を倒した人が新しい王になってた。トップは王1人。
今回ってどーなるんだろ。
未確認だけど、昨日までの皇帝は亡くなってる。皇帝を死に追いやったのは、人々。新しい方が複数なら、古い方も複数って考えると、旧体制の面々は残っているわけで、新しい方は誰が政治をするかなんて決まってなさそう。
牢にいたとき自己紹介してくれた人達の中に、リーダーはいるんだっけ。不明。
「おはよ。翠蘭」
翠蘭は、足が痛くて起き上がれない。寝具のところまで行くと、ゼスチャーで何か書きたいと示す。自分の部屋に戻って、紙と筆を持ってきた。
『出かけるの?』
「うん。雲嵐を探しに」
『可愛い』
「うふっ、ありがと。もう賞金首じゃないもん」
くるっと回って服をひらひらさせてからの、ポーズ♡
街娘の姿で髪も可愛く結ってオシャレしたの。皇帝がいなくなったなら、もう男装の必要なんてないから。
『お願いがあるの』
「なに?」
『李氏様が無事か知りたい』
あ、そーだった。皇帝に下がらさせられた後、姿を見ていない。身分からして監禁はされないだろうし、それどころじゃなくて忘れてた。
「分かった。宮廷、見て来るね」
馬を借りた。国境での道案内で足腰を鍛えた私でも、さすがにもう歩きたくない。
早朝というのに、宮廷には子供から大人まで、人々がぞろぞろと入って行く。でもって、金目の物を持って出て来る人がちらほら。火事場泥棒。
ほとんどの人は、焼け跡を見学してた。
宮廷前の広場には、昨晩と同じ場所に馬車が停まっていて、その上で演説する人がいた。もう、皇帝がいなくなったのに、何喋ってんだろ? 不思議に思って耳を傾けると、今後、どうやって国を運営するかについての演説だった。
今のままでは、北部から皇帝の一族が攻めてきて、都を征服する恐れがある。気持ちを引き締めなければ、努力が水の泡。
早急に政治の組織を立ち上げる必要がある。旧政権の面々から業務を引き継ぎたい。仮の政府を我々に委ねてほしい。
へー。トップの皇帝を倒したら、政権は交代なんだ?
それよりも、私にとって大切なのは雲嵐。
「外国船との戦いはどうなったんですか?」
広場にいる人に訊いても分かんない。
宮廷の外を回って、大河の方へ行ってみた。
途中、屈強な僧兵達が車座になって眠っていた。訊きたい。でも、昨晩、生死を賭けて戦った人達。静かに通り過ぎた。
誰か。
河港まで行くと外国船が2隻あった。ずっと向こう、大河の真ん中にもう1隻。それはマストが折れて船体が傾き、惨憺たる有様。河港にある2隻のうち1隻は、中央のマストから横に出ている棒が折れ、船体の片側、甲板部分に大砲を喰らった痕がある。もう1隻は綺麗なまま。
傷ついていない方の外国船から声がした。
「おーい! 麗」
燈実様じゃん。
手を振って答える。大きな声を出すのはちょっと恥ずい。なんだか、麗って呼ばれたり香香って呼ばれたり、不思議。もう呼びたいように呼んでください。
戦の疲れを微塵も感じさせない笑顔で、燈実様が船から降りてきた。
「お疲れ様でした。都を守ってくださってありがとうございます」
感謝。
「今さー。捕虜を入れる牢がなくて困ってんの。昨夜、燃えたんだって? ちゃっかり脱獄してっし」
言われてみれば、私って脱獄した体になってんだっけ。
「でもまあ、皇帝いないから、罪状も何もなくなったので」
「皇帝は遁走なさったと聞いた。宮廷の修理が終わったら、戻られるかもじゃん」
「いえ、たぶん、あの丘の上で亡くなられています」
私は、小さな丘を指差した。




