夕陽の中の始まり
言われた扉を開けると路地があり、その先は広場に通じていた。セキュリティかばかばやん。門の見張り意味ねーし。
辺りはキナ臭いどころじゃない。法部門の塀の中からもうもうと黒い煙が立ち上る。大勢の人が「香香、香香」と言いながら、法部門の塀の中へ吸い込まれて行く。
広場は人だらけ。中央に1台の馬車があり、上に人が乗って拳を振り上げる。
「自分らの地は自分らで治める!
自分らの国は自分らで考える!」
「「「「おおーー!」」」」
夕陽を背負って燃える姿に、発光するような熱量がある。
演説者が交代した。
「今のシステムじゃ、政治は回らない。
再構築だ! そのためには、身分制度を撤廃しろ」
「「「「おおーー!」」」」
今度は別の人が、馬車の御者が座る所で立って訴える。
「みんなが政治に参加するぞ。そのために、みんなが読み書きできるように、学校を作るぞ。みんなで正しい政治が行われるかチェックするぞ! 皇帝も貴族もなし。みんな税を払え」
「「「「おおーー!」」」」
そしてどこからともなく、あの歌が始まった。
「「「うちらのぉ米はうちらで食べよ
取られた米ならぁ取り返せ〜♪
増税官僚太った皇帝
うちらの米でいい暮らし〜♪
香香香香ンンン下の下の下〜♪」」」
盛り上がってるし。あ〜怖い歌。
宮廷の方にも人だかりがある。そっちは兵士と睨み合ってる。
ところで、みんな、外国船が攻めて来てるって知ってるんだよね? 最新情報は届いてないかもだけど、自分の周りに戦に借り出された人、1人や2人、いるよね? 外国船、舐めてんのかな。
がばっ
突然、いい香りに包まれた。翠蘭の香。痛いほど抱きしめられる。
「助けてに来てくれたの? 翠蘭?」
尋ねると涙を溜めた顔で首を縦に振る。屋敷から全く出ない翠蘭がここまで来るなんて、余程の覚悟が要ったはず。
「ありがとう。大丈夫だったよ」
こんなにも危険な場所に。暴徒、それに、翠蘭を傷つけた宮廷。ホントにありがとう。
夕闇が迫り、空が徐々に薄暗くなる中、翠蘭は涙を拭きながら、うんうんと何度も頷いた。
何背負ってるんだろ。翠蘭の背中には、白い布から突き出た棒。重いのか、白い布のねじねじした部分が薄い肩にガッツリ食い込んでる。
再会を喜ぶ間もなく、腕を引かれ、広場の隅に停まっていた馬車へ連れていかれた。逃げなきゃね。
李家の使用人が「翠蘭様、急いでください」と手綱を握りしめ、走り出す準備をする。
「ありがとうございます」
暴徒化した民衆を縫うように馬車が進む。
馬車の中、翠蘭は肩から白い布を下ろす。「何?」と気になる中身を確認すると、斧。ちょっとちょっと、似合わなさすぎ。こんな華奢な体で檻をぶっ壊してでも、私を救おうとしてたなんて。泣ける。
私が斧を見て驚いてたとき、翠蘭も、私の荷物チェック。ただの囚人服っす。もう着替えたし。
「逃げるぞ!」
「貴族か、官僚か?」
「逃すな。こんな世にしやがって」
馬車の周りから物騒な声が聞こえる。囲まれた? 馬車が止まった。
ダン
誰かが馬車の屋根の上に乗ってきた音がする。周りは罵声の嵐。
「賄賂と不正まみれなんだろ?」
「増税ばっかしやがって」
「やめろ。どけっ」
使用人が怒鳴る。
「てめぇも庶民だろ。貴族の味方すんのかよ!」
「違う! 中に乗ってるのは貴族じゃない。通せ、通すんだ」
「だったら誰が乗ってんだよ」
「大切な人だ」
「けっ。てめぇのご主人様かよ。てめぇも黒い金のおこぼれ貰ってんのかよ」
「うわっ。離せ」
馬車が揺れる。
「はっ。誰が乗ってんのか言えよ」
「香香」
「ウソつけ。香香って言えば許されると思うなよ」
言うしかない。馬車の中から大声で叫ぶ。
「香香だ! 香香が乗ってる」
ゲロった。




