蓋があれば開ける
走れ。広場とは反対方向へ。建物の中はダメ。また捕まる。
塀に沿って走り、塀についていた小さな扉を潜った。扉の向こうにあったのは、塀を挟んで双子のような道。
2、3歩走って、生垣に隠れる。人。
「そうですね。逃げる準備をしますか」
「皇帝を助けに行かなくていいんでしょうかね?」
「それは、近衛や軍の仕事でしょう」
「ですね。私は長男なので、危ないことはできません」
「私もです。家を継がないといけませんゆえ」
なんか、雰囲気が違う。
牢にいた役人は、警備用の服だったり、兵士だったりで慌しかった。生垣の前を通り過ぎた2人は、李氏様と同じ文官の服。しかも、会話の抑揚に危機感が微塵もない。
民衆が暴徒化してるのを知らない?
大河から敵が攻めてきているとこは知ってそう。優雅に逃げる話してた。
ちょっと待った。私ってどこへ逃げればいいんだろ。
この生垣んとこはしばらく安全そうではあるけど。
「ちょっと、アンタ」
ゔわっ。
つつかれて横を見れば、髭面に女の服を着た人。一緒にいるのは、細マッチョとゴリマッチョ。ってことは、女装の人? なんか、髭伸びて、化粧が全くなくなって、完璧、顔が漢。
「はぃ」
「香香なんだって? 鍵、ありがと」
「ぃぇ」
なんか、怖い。
「ここだったら、来たことあるから分かるわ。まず、香香、その目立つ囚人服を着替えなさいよ。こっちいらっしゃい」
なぜか、女装、いえ、姐さんに続いて建物の中へ入った。騙されてるのかなーってちょっと思った。けど、なんか「来たことある」って言葉に引っかかって従う。
「ここって、法部門の建物ですか?」
「違うわよ。外交部門」
姐さんは迷わず歩いて行く。
そして、ある部屋の前で立ち止まり、扉を開けて入る。そこそこ広い部屋には大きな机が1つ。応接セット1つ。机の上は巻かれた紙や束ねた紙でいっぱい。個人の執務室?
「人が来るんじゃ……」
びくつく私に、細マッチョが「殺してくれる」と物騒な一言。
「ちょっと、刃物没収されたから、アタシは殺せないわよ。アンタが殺りなさいよ。ほら、香香、ここ入って、着替えなさい」
姐さんは部屋から続いている書庫に私を押し込んだ。ささっと着替え。数日間着て、汗臭くよれっとなった服よりも、新品の囚人服の方が気持ちは良かったんだけどね。目立つのはマズイ。
それにしても、なんでこんなとこ知ってんだろ。
小さな声で「終わりました」と知らせても返事がない。扉が開かない。
!
「どうした、お前達。捕まったと聞いたぞ?」
緊急事態勃発。扉の外で誰かの声がする。
「はい。捕まっておりました。けれど、逃げてまいりました、陳氏様」
陳氏様? でも、内閣府長の陳氏とは声が違う。ここは外交部門の庁だから、李氏様の元上司? あの、法部門から外交部門へ異動した。
「私を脅しに来たのか? 何が望みだ」
「ご挨拶に寄っただけです。広場で騒ぎが起きていることは、ご存知ないのですか? 騒ぎに乗じて逃げました」
「騒ぎ? 先程まで会合だったからな」
「人々が集まって、隣の法部門の建物に火をつけたようです」
「何でまた、法部門なんだ? 民衆の不満なら皇帝に向いているはずなのに。宮廷の門は強固だから、お手軽な方で腹いせでもしているのか。全く。考えなしで困る。いやいや、単純な輩ばっかりでありがたいのか。ははは」
なに、その言い方。うちら民衆を頭からバカにしてる。
悔しさにグッと拳を握りしめたとき、肘が書物に当たった。おっと。落ちなくてよかった。書物はズレただけ。
あれ?
ズレた書物を直そうとしたとき、書物の下に箱が見えた。どう見ても隠してあった風。それには見事な螺鈿細工と漆が施されている。
気になる。いかにも貴重品を入れる箱。しかも、金満寺の住職好みの螺鈿細工。そこに山があれば登る。そこに蓋があれば開ける。
ってことで、オープン。




