雲嵐、無事でいて
突然、李氏様は目を丸くして、パタパタと扇子で私に風を送る。
「そーだ。雲嵐の話は聞いたか?」
「戦に行く前に、ここへ来ました。今、戦はどうなってるのですか?」
「大河の河口で4隻の外国船のうち、2隻を退けた。銃で百発百中の若造が大活躍したと聞いた。たぶん、雲嵐だろう」
4隻の外国船は、華港では何もせず、北へ向かい、大河河口の北側から上陸しようと小船で押し寄せて来た。小船に乗っていたのは武装した兵士。
発砲命令が下ると銃撃が始まった。若造は敵の船を漕ぐ兵士の腕を狙った。銃は発砲までに手間取る。傍に準備する専人を置き、次々と漕ぎ手の腕を撃った。
雲嵐っぽい。
西の国境で調印をしたときを思い出す。雲嵐は、兵士が振り上げた剣を撃って農民を助けた。
人を撃つのは嫌なのに。本当は、腕だって撃ちたくないんでしょ、雲嵐。
鎧、剣、盾。重装備の兵士は、水に落ちたら沈んでしまう。小船が沈まないよう、敵の兵士が母船や小船から落ちないよう、それでも攻めて来られないよう。腕を狙うしかなかったんだね。
若造は、上官から「殺せ」と命令されても、「外れました」と弾を腕に当てた。それって、マズくね?
外国船は船体側面に大砲が並んでいる。若造は帆の部分を狙った。風を操れず方向を失い、外国船は大砲を陸に向けられなかった。
4隻のうち、2隻は大河河口からの上陸を諦め、小船を出さず大河を遡って行った。
「2隻は沈んだんですか?」
「沈めてはいない。拿捕した。乗っていた人間は捕虜に。その後、船の扱いに慣れた漁師や河の者らが1隻の外国船に乗り込んで、2隻の外国船の後を追ったそうだ。雲嵐の部隊だろう」
「雲嵐の部隊?」
「さっきの、銃で次々と漕ぎ手を撃った部隊。その部隊は50名ほどで、訓練を受けていない、ゴロツキや若いのの寄せ集めだ」
それって、実は捨て駒だったってことじゃん。雲嵐、何もしなくていいから。クルージングだけで戻ってきて!
大丈夫かな。ガラの悪い人達にパワハラされてないかな。全然ウエ〜イ系じゃないもん。どっちかってゆーと大人し目。心配。
何より、
「危険じゃありませんか? 大河と大運河、中洲で外国船を待ち受けてるのに」
そーゆー作戦だった。
「ここまで情報が届いてるのだから、そっちには確実に届いているはずだ」
それを聞いて、ほんの少しほっとする。
戦況は目まぐるしく変わるもの。この情報だって過去。もう戦は終わってるかもしれないし、こっちが不利な展開ってことも考えられる。とにかく雲嵐、無事でいて。
「取り敢えず、連れて行くか」
「だな」
「しっかし、ホントはどーなんだ」
「そこは、言われたまんま伝えりゃいーんじゃね?」
それは朝。役人達が私の檻の前で話をしてる。
で、なんかよく分かんないけど、檻を出された。
白い囚人服に着替えるように言われた。服、持ち物は一まとめにして布に包んで持たされた。
連れて行かれた場所には、台があった。傍には椅子と鞭。なんで?
よく分からず立っていると、おっさん兵士が1人、入ってきた。
下の下の下の送迎と見張りをしていた顔見知り。喋るなと目配せしてくる。おっさん兵士は部屋に鍵をかけると、ささっと私の傍に来て、小声で言う。
「香香、鞭打ちだ。フリしろ」
なんですと!?
「え、え、え? どーやって」
「そこに上の服だけ置け」
おっさん兵士は台を指差す。そして、懐から布を出して私によこす。前を隠しとけって大きさ。
大きな布の四隅を首の後ろと腰の後ろで結んで、胸、隠したよ。白い囚人服の上衣を膝の高さほどの台の上に置いた。
おっさん兵士はうんうんと頷いてから、部屋の外にも聞こえるよう大きな声を出した。
「そこにうつ伏せになれ、女は服を着たままでいい。歯ぁ食いしばれ」
ビシッ
おっさん兵士は鞭を振り下ろした。




