知財を軽んず勿れ
[お兄ちゃん。私、世界一のラッキーガールだね]
たった1歳で、幼い5歳に守られて生き延びたなんて。
感動に浸ってると、キラが謝る。
[チスタンを滅ぼしたのは、オレの一族なんだ。ごめん。謝罪じゃ済まされない]
兄はすかさず[謝る必要ない]と言う。
[キラ、時代の流れだって。いろんな民族がいて、国家があって、国土がある。それが新陳代謝する。チスタンはでっかい西の国が欲しがるほどのいい国だったってこと]
[西の国が征服してからは、あんなに栄えてた街が廃墟になったけどな]
かつてチスタンの都は西の国、央の国、北、南、遥か向こうの列強諸国から、人と物が集まる国際都市だった。西の国は、富み、栄えるチスタンを武力で手に入れた。
しかし、チスタンを栄えさせていたのは、地の利だけではなく、そこに住む人々だった。チスタン人の多くは殺され、生き残った者は逃げた。西の国が支配するようになって、西の国から多くの人が移住してたけれど、チスタンの都は、衰退の一途を辿った。
キラの一族は、チスタンの都を別の場所に移した。かつての繁栄への回帰を諦め、農業に舵を切った。
[キラの一族は、今、香辛料の栽培で利益を上げてる]
[オレは、小さなころから、チスタンって国に憧れてた。よく、チスタン時代の都へ行ってさ]
え? なんで。
[廃墟フェチ?]
[ちげーし。チスタンの城に書庫があったんだよ。そこ行ってた]
[書庫?]
[誰でも出入り自由の書庫だったって聞いた。いろんな書物があって、たくさんの人が読んだ跡があってさ。ついでに隣に建ってる城の探検もして。元リーん家。金目の物はもうなんもねーの。絵とか装飾品とか絨毯とか家具、食器。そんなんは盗まれちゃってるのに、書物や政治の記録は残ってんの。だから、統治者が変わった後、チスタンの都が衰退したんだって]
キラはドラ息子ぶりを発揮して、チスタンの欠片を集めた。元チスタン人だった男を家庭教師として2人迎えた。1人は農民だった男。彼は、農作物を乾燥した大地に合うよう品種改良していた。もう1人は元教師。その男から、チスタンの教育制度を知った。
捕虜の中から兄を見つけたのは、元教師。父親と瓜二つだった兄が、かつての教え子の息子だとすぐに分かった。兄は元教師の口利きで、キラの下で通訳の仕事をするようになった。
[キラはさ、リーのお祖父さんの手記を見つけたんだよ。それに、リーのお父さんが生まれたときのことが書いてあった。刻印のことが]
[どんなマークかまでは書いてなかったんだよなー。それから何年も経って、偶然、お尻に印のある女の子を見た]
[お兄ちゃん、誤解しないでね。私、別にキラとなんもないから]
[分かってる。ちゃんと聞いたし。キラがヘタレだったって]
[オイ]
[ははは。冗談。神の教えに誠実]
[どっかで見たことあるマークだったから、なーんか気になって]
キラは記憶を頼りに、片っ端からチスタンの書物を漁った。諦めかけていたとき、目の前にマークが現れた。自分の屋敷にあった戸棚。美しい彫刻が施された戸棚の鍵穴には変色した金の蓋がついていた。蓋をずらして鍵穴に鍵を差し込むタイプ。マークはその蓋に薄っすら残っていた。
[オレ、キラから話聞いて、戸棚、触りに行ったよ。したら、たぶん、元王家の居間にあったやつだろーなって分かった。オレが覚えてたのは、ピッカピカの金。マークも覚えてた]
兄は、キラが和平条約で拐った女が私だったと確信した。
それは私が国境を離れた後のこと。そのころ兄は、別の場所にいて、キラは国境付近に私といたから。
[お兄ちゃん、話してくれてありがと。すごい話だね。ちょっと感動。なんかスッキリした。ずっと引っかかってたから]
私が元チスタンの王家の末裔だからって、牢から出られるわけじゃないし、何も変わらない。それでも知ってよかったよ。
[リー。お前のホントの名前は、リー・ヴァ・ラフオルジュ]




