出自
[お兄ちゃん、ここだけの話、李氏様がこっから出してくれることになってるから。大丈夫]
自信満々に告げると、キラに否定された。
[ムリっしょ。法に携わってる官僚が。一族ごと、清廉潔白らしーじゃん。李氏様がサディストって以外、変な噂ナシ。できねーできねー]
[お兄ちゃんもそー思う?]
[んー。一応、こっちからも手ぇ打っとく]
[買われるのは嫌。お兄ちゃん達はもう逃げて]
雲嵐と一緒になりたいのに、他の男に買われるなんて論外。
[もうしばらくいる予定]
[俊熙には他にもやりたいことがあるんだよな]
[それはキラもだろ]
[え、お兄ちゃん、なんかあんの?]
お兄ちゃんにも好きな人がいるとか。実は央の国の人とか?
[うまく行ったら報告する]
[うん。聞かせてね]
約束。
ところで。せっかく兄につけて貰った名前、「麗」だけど、香香ってバレて捕まっちゃったから、もう必要なくなった。
「……」
「せっかく名前つけてくれたのに、ごめんね。お兄ちゃん」
黙り込むなんて。そこまで拗ねなくても。
「あのさ、麗」
「ん?」
「リーなんだ」
「え?」
「お前の名前。本当の名前はリー」
[おい、、、俊熙]
隣でキラが驚く。キラの視線は「知っていた」ことを物語っていた。
そこから兄は、周りの人に分からないよう、西の国の言葉を使った。
[麗が幸せなら、何も知らなくていいと思ってた。だけど、ずっと気にしてるって分かってたし。もう、大丈夫だから]
そして兄は、淡々と語り始めた。
兄が5歳のとき、西の国が攻めてきた。
[お兄ちゃん、誰に聞いても、そのとき、央の国と西の国は戦をしてなかったよ?]
[チスタンと西の国の戦]
[私達はチスタン人だったの?]
[うん。民主制の国だった。国の人みんなが字を読めて書けて、自分の意見を話せて、身分の上下がなかったんだ]
いつかキラから聞いた理想の国。
チスタンの民主制を整備したのは元国王とその側近だった。最後の国王の孫が私で、兄は側近の孫。西の国が攻めて来たとき、戦火の中、兄は自分の父親から「命に変えてもお守りしろ」と私を託された。
東へ逃げるよう言われた。そのときはただ言葉に従っただけだったけれど、大きくなってから理由が分かった。西には西の国の領土がどこまでも広がっている。東は西の国の部分を過ぎれば、央の国があった。そして、チスタン人の見た目は、央の国の人間に似ていた。西の方へ逃げていたら、目立って捕えられてしまっただろう。
[お兄ちゃんだって、まだまだ小っちゃかったのに。オムツとか替えてくれてたの?]
[なんも履いてなかったから、大丈夫]
[へー。合理的]
西の国の国境付近へ行くと、汚い姿の子供がいっぱいいた。後に戦争孤児だと知った。兄は私を連れ、戦争をしていない平和な地で、戦争孤児として暮らし始めた。
私の名前を隠していたのは、西の国がチスタンの元王家を根絶やしにしようと狙っていたから。君主制で支配する地に、民主制の残棍があっては不都合だった。
なんか不思議。語り部の彩雅の作り話みたい。
フィクションでは、私は西の国のお姫様だった。後宮の陰謀で央の国に売られて下の下の下になった。
君主制が廃止された国だったとはいえ、元王家の娘だったなんて。
[リーのケツのは、家の刻印。生まれたときに押されるんだ]
元王家の慣わし。赤ちゃんだった私、きっと痛かったよね。
[そーだったんだ]
兄は、実の妹じゃない私の誕生日を知らなかった。
[お兄ちゃん、ありがとう。言葉では言い尽くせないよ]
[オレの方こそ。リーがいたから頑張れたんだ。リーが、いなかったら、盗みも暴力も平気な人間ンなってたと思う。お前を育てることがオレの誇りっつーか]
[……お兄ちゃん]




