下っ端雲嵐召集令
昨晩、戦になったら奔走しそうな、燈実様、御者、内閣府長の陳氏が牢に来た。だから、外国船の報告があったのは、それ以降。真夜中から明け方。
次の情報が入ったのは、昼過ぎだった。
「雲嵐?」
あれ? いつもと違う。兵士姿。背には銃。鎧までつけてる。ガシャガシャと音をさせながら歩いて来た。
「召集された。体力が回復してないって、兄が断ったけど。活躍したら、皇帝から褒美が貰えるって言われたから。オレ、行くわ」
「褒美?」
「香香の解放」
「そんな。活躍なんてしたら、危ないからダメ! 私だったら、なんとかなるし」
人を殺すのは性に合わないんでしょ?
「なんとかって?」
「それは、……逃げるとか?」
言えないけど、李氏様、燈実様、御者が逃がしてくれるはず。
「逃げてどうなる。オレさ、香香が自分のそばにいたら、それでいいって思ってた。どっか遠くの、誰もオレらのこと知らないとこで暮らせばいいって。でもさ、ちゃんと家族んなりたい。オレの家族に胸張って紹介するし、香香のお兄さんに挨拶したい」
「雲嵐がいなかったら、家族になれないからね」
だから、戦なんか行かなくてもいいって。
「分かってる」
「私、あんなとこ忍びこまなきゃよかった」
「捕まってなくても戦は行くよ。香香には堂々と暮らしてほしいから。もし子が生まれたら、のびのび育てたいしさ。だから、オレ、香香が世を惑わしてないって、皇帝に訴える」
子。
「そこまで考えてくれてるんだ」
雲嵐の覚悟や気持ちは嬉しい。でも、心配で胸が押しつぶされそう。目に涙が溜まる。
「待ってて。牢はキツイかもしんないけど」
「どこへ行くの?」
「大河の河口。外国船が華港では何もしないで北に向かった」
華港から北へ進んだなら、大河の河口に向かってる。
燈実パパの作戦は、第1目標.華港で撃沈、第2目標.大河と大運河、中洲の部分で撃沈、第3目標.都への上陸前で撃沈だった。
外国船がそのまま水路で都へ来るつもりなら、大河の河口辺りは戦場にならない。でも。
もし、敵がいくつかの小船で上陸してきたら、大河の河口は最前線。
「船で?」
「馬で行くように言われた。たぶん、陸上部隊」
「行かないで」
涙で雲嵐が霞む。
「大丈夫。オレ、銃はそこそこイケるから」
大砲が飛んできたら終わりだよ。央の国の大砲よりずっと遠くまで飛ぶんだよ。それにね、相手だって銃を持ってる。
兄が戦争から帰って来なかった日々が過ぎった。やっと会えた兄は、視力を失ってた。
「……」
「大丈夫だから」
「ムリしないでね。無事でいてくれれば、それだけでいいから。手柄なんて、いらない」
雲嵐は私の鼻の頭を指で弾いてから、笑顔で行ってしまった。
西の国境で、戦争の痕を見たことがある。兄を探しに行った。血と汚物の臭いが漂う中、ごろごろ死体が転がっていた。恐々、その顔を確認して兄じゃないことに安堵した。
雲嵐に弾かれた鼻を押さえたまま蹲る。もう、あんな思いは嫌。雲嵐になにかあったら。生きていけない。
次の日、キラと兄が面会に来た。
まだいたんだ。もう、西の国に向かっているかと思ってた。
[麗、出してもらえるよう、キラが頼んでるんだ]
兄は、饅頭を格子の間から手渡してくれた。
[キラって、そんな権力あるの?]
[いや、オレがあるのは金。麗を買うっつって、陳氏に会う約束まで行ったけどさ。戦で今は頓挫]
金かよ。
[本当に戦? あっちは攻撃してきたの?]
貿易の交渉って可能性もある。
[ここじゃ、そこまで情報入ってこない]
[そっか。ってか、お兄ちゃん、逃げてよ。危ないじゃん]
[麗。オレはさ、麗が幸せなこと確認するために来たの。こんなんじゃ、帰れねーって]




