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対峙




 牢は建物の1階と言うよりも、土台となるような高さの部分。天井が低く、吹きっさらしで外との仕切りナシ。


 寝転んで蚊をペチン、ペチンと潰していると、来客があった。

 ん? 寝釈迦仏状態で口を開けたまま振り返り、びっくり。

 

 紫色の着物を着た長身の美老人だった。

 圧倒的な威厳とオーラに、思わず起き上がってビシッと座り直した。この威風堂々たる佇まいは……。


 美老人は私の檻の前で、高価な紫の服が汚れるのも厭わず地面に胡座をかいた。



「そっ、そのようなところに。すぐに椅子をお持ちいたします」



 そう述べる役人を制する。



「この者と話したい。人払いを」



 その言葉に、「はい!」とすぐさま役人達が遠のいて行く。


 月の明るい夜。虫の鳴く声が囚人達のいびきに混じる。

 美老人の背後には、広場にあるかがり火が天に向かって燃える。



「内閣府長の(ちん)だ。香香(シャンシャン)か?」



 畏れ多いと思ってしまう。北部へ救援の米を送らなかったことに怒りを感じていたのに。私は、すぐさま地面に両手をついて頭を低くした。 



「現在は(リー)と名乗っております。私は香香ですが、人々が作り出した香香とは全く別の人間です」



 ひれ伏したまま答えた。



「そうだろうな。鼻息で嵐を起こす人間などいない。顔をあげなさい」



 政治の実権を握り、皇帝よりも多くの財を持つと囁かれる陳氏は、白い垂れ眉の優しい目をした好々爺だった。



「……」


「民は、自分達の地は自分達で治め、自分達の税は自分達で決め、自分達の国は自分達で考えたいと言っているようだが、それは実現できると思うか?」



 ひえ〜。



「それを言ったのは、私ではありません」


「そんなことは想像がつく。香香は3人いる。

 米蔵から不正に取られた米を取り返した香香は正義感があって衝動的。行動力のある人間。自分達の国を自分達で考えるといった香香は民主制に憧れる人間。噂では、碧眼の異人。私には1人、思い当たる人物がいる」



 キラ、バレてるよ。



「もう1人は?」


「平等を訴え、身分制度の撤廃を叫ぶ香香だ。建設的で具体的な意見を持っている。3人とも人間像が違いすぎる。言うなれば、1人目は、2人目と3人目に利用された偶像。1人目の香香は、それだけ人々の心を動かしたのだ」


「3人目は建設的で具体的なのですか?」


「ああ。3人目はたぶんチームだ。私の夢を叶えてくれるかもしれん」



 夢?



「それはどのような夢なのでしょう」


「民の痛みを知り、民を真に考え、その器のある者が、国を治める」



 不敬罪。皇帝批判。処刑ものの発言。



「耳を澄ませている者が大勢いると思います。その発言は……」



 私は声を低くした。



「気にするな。私が言わなかったと言えば、言わなかったことになる」



 出た。絶対権力。



「お尋ねしたいことがあります」


「なんだ?」


「今、民の痛みを知り、民を真に考え、とおっしゃいました。陳氏様は、民のことを真に考えていらっしゃるのですか?」


「日夜。眠っているときすら夢の中で考えている」


「では、なぜ、北部へ米を送らなかったのですか? 北部は飢饉で苦しんでいました。上書があったのに、米は送られなかったと聞いています」


「送った」



 嘘つけ。外交の大臣が秘書に罪をなすりつけたみたいに、下の者が送っていなかったと言い逃れするつもりなんだろ?



「それは本当ですか?」


「上書より前だ。収穫前から不作と分かっていた。北部の米や小麦の在庫を考え、税を収めた農民達が飢えぬよう、私の判断で行った。だが、北部を治めている、皇帝の甥の周りの貴族が、運搬途中の船を襲って米を全て自分達の物にした。そして、やがて訪れる飢饉に備えたのだ」



 貴族達が強奪。統治者である皇帝の甥には力がない?

 


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