河の者のオバハン
どの辺りまで極秘捜査なのか分かんないけど、ここまで無視することないと思う。李氏様と燈実様、保身かよ。
荷馬車から降ろされた。手に縄をかけられたまま連行される。厳しい門を過ぎると、広場のような空間の先に建物が見えた。あそこが牢か。
隣にも同じように連行されてるオバハンがいた。暴れるからか両脇を抱きかかえられえてる。足、宙に浮いちゃってるし。
「どけって言われたら、うちら、どこで寝るのさ。勝手に軍事訓練なんか始めやがって。河の者ってバカにしてんだろ。ふざけるな! てめぇらもうちらも一緒だろ。今に香香がやっつけてくれっからな。身分なんかくそっくらえ」
めっちゃ怒鳴ってる。なんか香香のこと言ってる。怖っ。
足が宙に浮いたままのオバハンは、私を追い越して、先に檻にぶち込まれた。私は、その隣の檻に。
スケジュールを確認。食事は朝夕2回。私はしばらく牢から出られない。数日中に裁判が行われる。恐らくは皇帝が登場する。最低でも鞭打ち100回。最悪は公開処刑。
「殆どのヤツらは一晩ここで寝たら、明日釈放だけどな。お前は特別だ。香香」
と周りの檻を親指で指す役人。何、その違い。
オバハンを連れてきた役人や見張り番も私を見に来た。
「本物? ヤッバ。香香の本物」
「男のカッコしてるじゃん」
「へー。これが香香?」
「碧眼じゃねーし」
牢がざわつき始めた。「香香?」「香香だって?」という声がそこらじゅうから聞こえてくる。
隣の牢のオバハンは大声で叫んだ。
「てめーら、香香を捕まえたのかよ。罰当たりな。覚えてろよ!」
オバハンは檻の格子を掴んで、がるるると狂犬状態。他の囚人達も、口々に何か言いながら、格子の木をかんかん叩いて騒ぎ立てる。
そして、あの歌が始まった。
「「「うちらのぉ米はうちらで食べよ
取られた米ならぁ取り返せ〜♪
増税官僚太った皇帝
うちらの米でいい暮らし〜♪
香香香香ンンン下の下の下〜♪」」」
大合唱。エンドレスリピート。
でもまあ、ずっと歌ってはいられないからか、やがて静かになった。飽きるよね。
隣の檻のオバハンから話しかけられた。
「男のカッコして。アンタ、香香やったん。覚えとる?」
「……」
どっかで会ったっけ。
「アタシ、船でお父ちゃんと麺売ってんの。アンタ、西の国の人らとおったやん」
「ああ、麺丈夫の」
「そーそー」
キラと兄と私の3人で華港まで行ったとき、船から冷麺を買った。あの、食べた後、キラがお腹壊した。
お金の受け渡しや噂話はオッサンとだった。傍にオバハン、いたわ。河で器洗ってた。
「あのときは、ご馳走様でした。冷麺美味しかったです」
「麺丈夫ってよー知っとんね。看板もないのに」
店名を知ったのは、副大臣北の国訪問時の記録からの推測。ビンゴだった。笑って誤魔化す。
「あははは」
「今ね、軍が練習かなんか知らんけど、河でいろいろして、うちら、クソ困ってんの」
ある日、突然、軍の役人が船をどけろと言ってきた。オバハン達は、船を家として生活してる。大河にはそういった人々がたくさんいて、河の者と呼ばれてる。オバハンの家族は、都近くの中洲の内側、河の者としては一等地に船を係留してた。渋々移動。そしたら、今度は移動した先で「大砲を飛ばすからこの辺りは危ない」と追い払われた。再び移動。しかーし、次の場所は、戻ってきた商業船が係留されたり、整備されたりするエリアだと追い出された。
「酷くない?」
これ、燈実様と御者の作戦の被害者じゃん。
「いきなりは困りますよね」
大河と大運河は、重要な交通網ってだけじゃなく、生活の場だもんね。
「まったくだよ。役人はそんなに偉いんかい」
オバハンはふんっと鼻を鳴らした。




