白虎が守る銀と金
息を潜め様子を窺う。
なんか掘ってる?
ザクリザクリ
ザクリ ザクリ
ザクリ ザクリ ザクリ
いつまで続くんだろ。眠……。
明け方目覚めると、窓からの光で部屋はずいぶん明るい。
昨夜、寝ちゃったのか。
んーっと伸び。今のうちに逃げよ。
部屋に列を作っている箱を避けながら、そーっと臭くない方の窓に近寄る。
ん? この箱って。芸術コレクション? いかにも掛け軸が入ってそうな幾つもの縦長の箱が目につく。船底で見たような、高級な陶磁器が入っている風の箱もいっぱい。由緒正しそうな毛筆の文字入り。
銀もある? ううん、ない。御者は出入りするとき、部屋に鍵をかけなかった。銀を保管してる場所なら、絶対に鍵付き。
ここは金満寺所有の屋敷。だけど、所有者が住んでるのは金満寺。自分が留守の屋敷に大事な財産を保管するなら、信用できる人間を置く。だから妾なのかな。
燈実様の調べでは、屋敷は金満寺所有。御者の話では、金満寺の高位の僧は別邸に妾を持てる。
河港使用許可証と華港使用許可証を、元経済の副大臣、金満寺住職が受け取ったことを考えると、ここに住むのは、金満寺住職の妾。妾はハスキーボイスの女の人だと思う。
あ、れ?
兄が道で尋ねたとき、ここに住んでるのは還俗した元僧侶で、高名な人の妾って。高名な僧は金満寺住職だとして、還俗した元僧侶ってナニ?
人の噂ってアテにならないわー。香香といい、元僧侶といい。
「逃げよ」と窓枠に足を掛けたとき、思った。リスク犯して収穫ナシかよって。ちょっと悔しい。
窓枠に足を掛けたまま振り返ると、金屏風で白虎が笑ってる。
よほどお気に入りなのか、金屏風の前に物や箱が置かれていない。
なんかあれ、バリ怪しい。
気になって、金屏風の後ろを見に行った。胸よりちょい下くらいまでの高さの扉がある。おおーっ、鍵付き。銀ここじゃね?
南京錠を触っていると、遠くで話し声がした。
「今日はこちらで過ごされるのですか?」
「うむ。新しい男はどうだ? 役に立つか?」
「ええ。働き者です。あの者の料理が美味くて重宝しそうです」
「そうか、それはよかった」
「昼は、牛肉を焼くと言っておりました。今、タレに漬けてましたよ。酒もいいものを用意してあります」
「それは楽しみだな」
金満寺の高位の僧。酒肉和尚の住職の声だったよーな。
新しい男って、御者のことかな。料理上手? 知らんかった。
足音が近づいてくる。
まずい。部屋の前で止まった。
咄嗟に隠れたのは窓と積み上げてある箱の隙間。蹲って箱の間から様子を伺う。
部屋の扉が開いた。
「臭うな」
ぎくっ
その言葉に背筋が凍る。見つかる! 殺し屋に殺されるかもしんない。
「すみません。埋め方が浅かったのです。昨夜、深くまで埋め直しました。もうしばらくすれば臭わなくなると思います」
「そうか。次回から、できれば、敷地内はやめなさい」
「分かりました」
セーフ。私の臭いかと思った。
昨夜埋め直してた物の臭いだったみたい。私の鼻が慣れちゃっただけで、部屋は結構臭いのかな。
隙間から見える、黄色と赤の着物。その後ろで扉が閉められた。
入ってきたのは、金満寺の住職。やっぱり。
鼻を袖で覆い、すたすたと金屏風の前まで歩いた住職は、立ち止まると、白虎に話しかける。
「お前は守神だ。今日も美しいのぅ」
それから金屏風の後ろに姿を消した。かちゃかちゃと鍵の音がし、キィィと扉の開く音が続いた。
しばらくすると、部屋の入り口で誰かが住職を呼んだ。
「お食事でございます」
住職は食事に行った。逃げるチャンス。なのに、好奇心を振り切ることができなかった。見よ♪ さっき、住職が部屋を出るとき、鍵をかける音がしなかったよね。扉は開いてる。
思った通り、自分の胸より下くらいまでの扉に南京錠はなかった。恐る恐る扉を開けると、窓のない部屋があった。薄暗い。入り口の扉からの光が頼り。
蝋燭を灯していた匂いがする。文机の上には南京錠が置かれていた。部屋の壁の前に箱がびっしり並べて積み上げてある。どれも同じ大きさの、銀が10入る箱。数がやばい。
1番隅の箱を開けた。銀、銀、銀。
手前に積み上げてあった箱もオープン。こっちは金、金、金。すげー。
こんなにもたくさんの金、初めて見た。薄暗がりでも分かる輝き。小さな草鞋みたいな形の金が、整然と並んでる。
文机があるなら、帳簿があるはず。帳簿帳簿帳簿は……。見当たらない。
よし。いいもの拝んだ。逃げよ。
音を立てないように注意して部屋を出た。窓のところまで行く。
「困ります!」
突然の大きな声に固まった。何事?!
声はハスキーボイスの女。




