番犬セキュリティ
「陳氏様って、この辺じゃ評判いいんだ?」
「神様みたいな感じ。だからさ、こんだけ香香の歌が流行っても、あの蔵を襲う人なんていない」
雲嵐は立ち並ぶC印の蔵を見る。
都である皇帝のお膝元は経済の中心。貧民は少ない。気候にも土壌にも恵まれて、周りの農民は蔵を襲うほど窮していない。
「そーなんだね。だったらなんで都で香香の歌、流行ってんだろ」
謎。
「税はどんどん高くなるからなー。物価が上がってっし」
「不満のいき場所?」
「かも。香香はいい迷惑だよな。オレだって。香香って呼びたいのに」
「名前、大事?」
「うん。呼び方変わっても、人は変わんないけどさ」
「じゃ、2人のときは呼んで」
「いい?」
「うん」
「香香」
「ふふ」
「いつか、みんなが忘れたら、思いっきり呼ぶ」
そーゆー日が来るといいね。
ジモティ雲嵐は、陳氏について教えてくれた。商いをしているのは、内閣府長の兄。商いで扱う物は幅広く、国のさまざまな場所にC印の蔵がある。大半は兄の方が管理しているが、都の港にある穀物蔵だけは、次男である内閣府長が管理している。
悪いことするためなんだろーか。
「なんで? 内閣府長の仕事忙しいのに」
「家、近いからじゃね?」
そんな理由かなぁ。
李氏様の屋敷まで送ると言う雲嵐をなんとか家に帰した。
やりたいことがある。
立ち並ぶ穀物倉庫の前の道を行く。内閣府長の陳氏の屋敷は、蔵続きにあった。門には扉がついていない。李氏様の屋敷よりもセキュリティがばがば。いーの? お宝隠してるんでしょ?
大きな屋敷には違いないけど、大河の支流の支流沿いにあった金満寺所有の屋敷ほどは大きくない。
ん? 馬に乗って上ばっか見てたから気づかなかった。塀の前に、でっかいわんこがいっぱい寝そべってる。馬を止めて話しかけてみた。
「今日は暑いね」
近くにいた2頭が頭を起こし、ゆるく尻尾をふりふり。
「ここの家のわんこ? えらいね、セキュリティのお仕事?」
その辺にいたわんこが一斉にゆらゆら尻尾を揺らす。かわいー。
わんこは賢い。そして裏切らない。謀らない。きっと、人間よりもいい仕事をしてる。ここに入るのはムリ。
すっかり暗くなった。大河の土手を進む。支流に沿って折れる。そこで馬を降りた。
「そんなに待たなくていいからね。眠くなったらお帰り」
馬の鼻を撫でる。ジェントルマンな馬は、その場に佇んで私を見送ってくれた。
雲嵐が言ってた。「壁を塗るためのスペースくらいある」って。それは、西の国に囚われた私を、絶壁の崖の上の城に助けに来てくれたときのこと。
鉄壁の守りの屋敷でも、きっと穴がある。通りからは高い塀とぴたりと閉じた門扉。猫の子1匹通さない風に見える。でもさ、裏は? 崖の上がそうだったように、きっと支流の支流に面してる側は違う。そう思ったら、確認したくて、いてもたってもいられなかった。
前回、キラと兄と来たとき、屋敷は静まり返っていた。大きくても、人はあまりいないかもしれない。
李氏様の屋敷は、使用人の声や翠蘭の箏の音が聞こえる。あの雰囲気がなかった。
入れたら、蓄えたお宝を拝む。銀が入ってる箱を数える。
それと。
金満寺の住職は芸術に精通してる。東の国へのお土産を選定したほど。
選定した品は3つに分けられた。2つは東の国へ。私は残りの1つは、住職が売り捌いて利益にしたと思う。その手がかりを探す。帳簿あるかなー。商売人じゃないからなー。
屋敷を1周ーーーはできない。そんな都合よく道はナシ。
河から攻める。河は途中から人工的な水路になってた。OK。人が造ったなら、歩く場所が確保してあるはず。参考:雲嵐。
塀はきっちり水路側まで続いてる。塀と水路の間にある僅かなスペースを歩く。船着場には小船が3艘。船着場への門扉は閉じている。通り側の扉とは違って小さい。鍵かかってるし。当たり前か。
そのまま歩いていくと、みーっけ。ここから入れそう。




