山河美景恋々不舎
「麗?」
その名前を呼んだのは、紛れもなく雲嵐で。荷台の入り口から蝋燭で私を照らす。
「雲嵐!」
会いたかったよ。
雲嵐が荷馬車に乗り込んでくる。ガオも一緒に。
雲嵐の首に腕を回す。いつもの雲嵐の匂い。汗と木々とほんの少し獣の匂い。
キス、キス、キス、キス。
狂ったように繰り返す。
そんな私達2人に、ガオがぐーぐーぐーぐーとじゃれつく。
「ガオ。ごめん。2人にして」
雲嵐が申し訳なさそうな声を出すと、ガオは「しょーがないなー」って感じで荷馬車から出て行った。
ちゅっと軽かったキスに「ぁぁ」吐息が混じる。大きな両手で顔を包まれ、親指で下唇に触れられる。自然に唇が雲嵐を求める。受け入れてるはずなのに、同時にごっそりと何かを奪われてる気がする。
「体力、回復した?」
そう訊くと、「期待してんの?」なんて笑う。
暗くて、笑顔が見えない。明るくなったら、いっぱい見せてね。
骨ばった手が肌を這う。この触れ方が好き。この息遣いが好き。雲嵐が乱れていく様が好き。
「好き」
「麗、家族、欲しい」
「うん」
「いい?」
「ほしー」
ずっと欲しかったよね、私達。旅をしてたから、子供は授からないようにしてた。
仕事とか生活とか賞金首のこととか、何も考えてない。でもね、一緒にいたい。家族になろう。もし新しい家族が増えたら、きっと楽しい。
「麗がいたら、オレ、なんでもできる気する」
私も。
揺らされて、支えられて、夜に溶ける。
布団も干し草もない荷馬車。
「雲嵐、背中痛いでしょ?」
「へーき」
「重くない?」
「ぜん、ぜ、ん」
耽る。
朝露が草の匂いを濃くするころ、ぴったりくっついていた体を離した。体温を無くした場所を寂しく感じる。
「雲嵐」
「ん?」
「少し戻ったね」
言いながらぷにぷにと腕を触る。それほど何日も経っていないのに、あの痩せこけてた体は元に戻ろうとしてる。
「そ?」
家族に紹介したいと言われたけれど、街に人がいない早朝に帰らなきゃ。それに、
「ちゃんと女の子の格好で会いたい」
今、男装。
「そっか」
ドラゴン山は大河に沿ってある。雲嵐と馬で山を下り、大河沿いを河上へ進む。見晴らしのいい場所から河港を眺めた。停泊中の船は巨大な生き物が眠ってるみたい。
あれって。
見覚えのある帆船。華港で積み替えた箱を都の支流の支流まで運んでいた。正規の港に停泊してるなら、河港使用許可証を持っているはず。どこの船か分かるかも。
雲嵐は李氏様の屋敷まで送ってくれた。離れがたくて、ついてきちゃったって感じ。
「麗。大好き」
「私も」
朝帰り後なんて気まずくて、李氏様に会いたくなかったけど、報告。キラと兄と一緒に華港へ行ったときの帆船が、河港にいたことを。
李氏様から、「もっと早く帰ってくるように」と一言あった。すみません。止まらなかったんです。
「港の記録を調べておく」
「ありがとうございます。あの」
「どうかしたか?」
「ここに置いてくださって感謝しております。でも、いいんでしょうか。もう下の下の下の仕事もしていないのに」
今の状況、タダ飯食い。
「いてもらわないと困る。麗が気づいてくれたことから横領を暴くことができた。頼む。いてくれ」
優し。
「お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」
「こちらこそ。期待している」
「はい。頑張ります」
李氏様にとって、この屋敷に私1人が増えようが、どうということはない。でも、私は「貧しくて口減し」みたいな世界で生きてきた平民。気にしちゃう。
はっきり許可を得られてヨカッタ。
言われたからには期待に応えなきゃ。
戦費調達!
総本山、内閣府長陳氏の埋蔵金。




