「体目当てです」
「その方に想いを寄せていらっしゃるのですか?」
「いえ。体目当てです」
言い切っちゃったよ。
「では、お気になさらず」
「気にしなくても大丈夫なのでしょうか。襲いっぱなしで。仮に私が男だった場合、相手に謝罪したり、褒美を与えるのではないでしょうか」
褒美? うーん。後宮の常識が分からん。
「そのままで大丈夫だと思います。相手からは何も言ってこないでしょう。脅迫の可能性もありますが、逃げるくらいなら、脅迫はありません」
「では、このままでいいのですね」
「はい」
「香香、聞いてくれてありがとう」
「とんでもありません。勿体無いお言葉です」
「たった1回のことですが、私にとっては本当に大切なことなのです。自分の心を殺されるのが嫌だった。これから、意志をなくしたふりをして生活することに耐えられます」
「あの」
「はい」
「西の国では、そういった花嫁は殺されるかもしれません。ご存知ですか?」
「はい」
「それはつまり、西の国には嫁がないということなのですね?」
「皇子に嫁いで未亡人になった姉が、皇帝と再婚しました」
それはそれで複雑。
「他の国の風習は存じません。北の国は大丈夫ですか?」
「殺されることはありません。魅音に誤魔化し方を教えてもらいました」
素晴らし。そんなんできるの?
「安心しました」
「実は、ここに出入りしているとの情報を得ました」
「え」
「私が襲った相手です」
ここに被害者がいる?
李氏様? 燈実様? あ、御者だ。遊ばれても楽しそう。
「では、ここへいらっしゃったのは、会いたいということですか?」
あのヤロウ、こんな純粋培養のお姫様にまで手ぇ出しやがって。いや、反対なんだ。手ぇ出された側。
「いえ。謝罪や報酬が必要ならば、それをすべきだと思ったのです」
そのとき、魅音さんが部屋の扉を開けた。
「お急ぎを。誰か来ます」
あっという間だった。御者が来て、魅音さんの腕を捻り上げ、床に頭を抑え付ける。燈実様は瑞華様を羽交い締めにした。
「麗、大丈夫、か? ええっ!」
燈実様は自分がバックハグのようにしていた人間の正体に気づき、ばっと離れて頭を垂れた。
すでに、御者はいなくなってる。逃げ足速っ。
そこへ李氏様が現れた。
「何かあったの、か。!」
李氏様は目を見開いて固まった。不躾な視線は、瑞華様の顔だけでなく、腰の下辺りにも注がれちゃってる。
「李氏様、大変申し訳ありません。どうしても香香様にお会いしたかったのです」
真っ先に魅音さんが謝罪した。まるで自分の所為とでもいうように。すかさず瑞華様が「用があったのは私です」と言い、2人は帰った。もちろん、帰りは護衛をしましたとも。燈実様が。
李氏様は口を固く結んで目を閉じたり、ため息を吐きながら天井を仰いだりしてる。
知りたい。
「何色でしたか?」
それだけで通じた。アラビア数字の色。男性経験人数の。
「金」
「すごっ」
「初めて見る色だ。だが、いいのだろうか」
皇女という政治の道具であることに、小さな反旗を翻した瑞華様。たった1回であっても、それは大きな意味を持つ。
燈実様が屋敷を出てしばらくすると、御者がひょっこり現れた。
可哀想に、襲われたんだ。あれ? 違うよね。瑞華様は縄を解いてからシたって。ま、災難は災難。
いつものように和やかに夕食が始まった。私はもう翠蘭と食べたから、本日も点心。
燈実様はまだ戻っていない。
李氏様が金獅子香炉の情報を得た。
「東の国に2つ送られている。私達が金満寺へ持ってったのは、夏世界が、依頼されて新しく作ったものだ。依頼主は内閣府長の陳氏様だそうだ」




