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第20話 告白

 俺たち三人は居住区に移動していた。

 アイザックは借りてきた猫のようにおとなしく自分の部屋に入っていった。

 このまま艦隊旗艦が到着するまでおとなしくしていてほしいと俺は切に願った。

「まずは通信システムの復旧と、艦隊司令部への状況報告だね」

 アイザックの姿が部屋の中に消えると、俺はレイチェルに最優先の課題を確認した。

 通信障害は敵艦隊の電子戦による影響などではなかった。

 敵の巡航艦も駆逐艦も撃破されたのに通信は回復しなかった。

 どんな手を使ったのかはわからないが、確実にアイザックによる妨害工作だと思われた。

「わかりました。シンイチ」

 レイチェルは相変わらず春の日差しのような笑顔を浮かべていた。

 それに比べてレイチェルの隣に立つアリスはさっきからずっと不機嫌そうだった。

 たまに俺の方をチラチラ見ては睨んでくる。

「では、私はここで失礼します」

 レイチェルはアリスを見ながら優しく微笑んだ。

「えっ? 俺たちが部屋に入るのを見届けなくていいの?」

 俺たち三人はそれぞれの居室で保護という名の軟禁状態に置かれる予定で、レイチェルはそれを見届けるためについてきたはずだった。

「野暮なことはなしですよ。頑張ってくださいね。シンイチ」

 レイチェルは謎の言葉を残し、俺たち二人に背を向けると、優雅に歩み去っていった。

 後には不機嫌そうなアリスが残され、重苦しい沈黙がウサギのようにか弱い俺の心臓を握りつぶした。

「えっ、ええと」

 沈黙に耐えかねて言葉を吐き出そうとしたが何を言っていいのかわからなかった。

 そもそも尋常ではない危機をとりあえず乗り切ったのに、なんでこんなにアリスが不機嫌なのかわからなかった。

「バカヤロー、何なんだ! さっきのは!」

 アリスが恨みがましい目で俺のことを睨みながら叫んだ。

 俺は記憶を巻き戻して、必死で彼女が言う『さっき』とは何かを検索した。

 そして、アリスのことが好きだとか、二人きりになりたかったとか、愛欲にふけりたかったとか、凄まじく恥ずかしい発言をしたことを思い出した。

「あ、いや、成り行きというか、何というか……」

 頭皮に汗が噴き出した。顔が火照って熱い。できることなら、この場から逃げ出したかった。

「本当にウソつきだな、お前は!」

 アリスの声のトーンがさらに高くなった。

 気のせいか眼尻のあたりにうっすら涙がにじんでいるように見えた。

「いや、でも、まるっきり、嘘というわけでは」

 自分の胸に聞いてみた結果だ。本当に嘘ではなかった。

 アリスはどうだか知らないが、仲間として信頼している以上の感情が俺にはあった。

「どの部分が、どう嘘じゃないんだ!」

 アリスの形の良い目がまっすぐ俺を見つめていた。

「全部がです」

 俺は彼女の目を見返して背筋を伸ばして答えた。

 死ぬほど恥ずかしかったがやけくそだった。

「馬鹿!」

 アリスは耳の付け根まで真っ赤になっていた。

 荒い息を吐きながら俯いて暫く黙った。俺も黙って彼女を見つめていた。

 やがて彼女は俯いたまま小さな声でつぶやいた。

「ありがとう。さっきは助かった」

「えっ?」

 今頃、アイザックを論破した礼か?

 今の俺の告白に対する答えは? 

 俺が面食らって佇んでいると、アリスは俺に背を向けて、自分の部屋の扉を開けた。

「この艦に乗っている間は変なことするなよ」

 アリスは振り返って今まで見せたことがない不思議な表情で俺にそう告げると、扉を閉めた。

 廊下は無機質な静寂に包まれた。

 俺は恥ずかしい告白をした挙句、ふられたのか?

 アリスのセリフが何度も頭の中で繰り返された。そして悩んだ。

 浅ましいことに希望を捨てることはできなかった。

 変なことってどんなことだ?

 変じゃなければいいってことか?

 アブノーマルはだめだけどノーマルならいいわよということなのか?

 それとも、この艦に乗ってる間はダメだけど、航海が終わり休暇中なら変なこともしていいわよということか? 

 俺は誰もいない廊下で、しばらく妄想に身を委ねていた。 

毎週土曜日に更新予定です。

皆様に楽しんでいただける作品になるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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