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『デッド・アディクション 〜依存者たちの最期(ラスト)禁断症状〜』  作者: 天野確率
欲望の着火

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第4話:『言葉の制止と狂者のロジック』

07:43………07:42……。


室内の全視線が、一瞬で翔太へと集まった。

メスの上に指先をかざしていた自傷依存の男が、首を奇妙な角度に曲げ、血走った目で翔太を睨みつける。


「……なぁに? 僕の邪魔をするの? 早く切りたいのに。血が見たいのに……!」


「切りたいなら、今切ったら意味がない」


翔太は自分の指先の震えを必死に抑え込みながら、努めて冷徹な声を張り上げた。脳内ではガチャのピックアップ画面が焼き付いたまま、激痛のようなドーパミンが暴れている。だが、ここで思考を止めたら全員死ぬ。


「お前の首輪、見ろ。メスに触れた瞬間、毒針が飛んで一瞬で死ぬ」


「死ぬ……? あはっ、死んだっていいよぉ!」


「いいや、ダメだ」


翔太はあえて、相手の「自傷したい」という欲望そのものを否定しないロジックを展開する。


「お前が欲しいのは『死』じゃないはずだ。刃物が皮膚を切り裂く感触と、血が流れる快感だろ? でも毒針で即死したら、切る前に死ぬ。それはお前の望む自傷か?」


「え……?」


男の動きがピタリと止まった。

狂気で混濁した男の脳内に、翔太の言葉が「自分の欲望の定義」として引っかかったのだ。


(乗ってきた……! 狂人には正論は通じない。だが自身の偏った欲望の理屈になら誘導できる……!)


「それに」と翔太は言葉を重ねる。「あと5分耐えてクリアすれば、万能の権利が手に入る。そうすりゃ、死ぬことなく永遠に自分を切り続けられる体だって手に入るかもしれないんだぞ」


「永遠に……切れる……体…?」


男の瞳の奥に怪しい光が宿った。

かざされていた手が、ゆっくりと、だが確実にメスから遠ざかっていく。


「ふぅ……あははっ! そっか! すぐ死んじゃったら、一回しか気持ちよく切れないもんね! 僕、我慢する! クリアするよ!」


男が満足そうに不気味な笑みを浮かべ、椅子に深く腰掛け直した。


「……助かった、のか……?」


吉野が床にへたり込んだまま声をもらした。

翔太は背中に冷や汗をびっしょりとかいていた。精神の削られ方が異常だ。自分の欲望と戦いながら他人の狂気を言語でコントロールしなければならない。


だが、危機が去ったわけではない。


05:30……05:29……。


「ハァ……ハァ……ッ! もう無理だ……無理だ無理だ無理だッ!!」


次に破綻をきたしたのは大滝だった。

激熱演出の保留がついに最後の1個に差し掛かり、台全体から『激熱! 激熱!』という大音量の電子音が響き渡り始めた。大滝の目が血走り、口から溢れた泡が顎を伝って垂れ落ちる。


「あと……あと一回……! ハンドルを捻るだけで……俺の人生は逆転するんだぁぁあッ!!」


(まずい……! 大滝の顔つきが変わった。あれはもう脳が快楽に支配されている、『やる前』の顔だ……!)


翔太が叫ぶより速く、大滝の右手がパチンコ台のハンドルへと一直線に伸びた。

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